ぎりぎり間に合ったので「ドクター・スリープ」を観てきた。
原作はまあまあという評価で、映画版はそれほど期待してなかったけれど映画「シャイニング」の続編であるという位置づけが明確になってから俄然興味が湧いた。はたして、前作との関連はどの程度なのか、どのくらい原作と違っているのか。そんな感じで観てきました。
面白い。原作どおりで普通に面白い。
最初に感想を言うと、面白かった。予想していたよりもずっと面白かった。そして原作にかなり忠実だった。丁寧に作られている、という感じ。映画シャイニングとのつながりを強化しながらも、大筋を変えちゃうほどではなくて、基本的な部分は原作のまま。
原作に忠実な分、感想も原作とほぼ同じ。受け取る印象も同じ。ヴァンパイアたちの残忍さはよく描かれているけど、それでも弱く感じる≒アブラが強すぎる。そして原作ではじつのところ、主人公がシャイニングにも登場したダニーであるという以外にシャイニングとの関連はあまりない。なので、本作で映画版シャイニングと結びつけようとしているところにちょっと無理矢理感を感じないでもない。まあ、普通に見てる分にはそんなに気にならないと思うけど。
「シャイニング」の続編アピールがすごい。
冒頭から、これは映画版シャイニングの続編だ!とおもいきり主張してきます。過去の映像の使いまわしとかではなくて、ダニー少年、お母さんのウェンディが登場するシーンをちゃんと撮影して、新たなシーンをきちんと構成している。ダニーも似てるし、ウェンディも顔はともかく髪型とか、仕草とか走り方とかがかなり前作のシェリー・デュヴァルに似せてきてて感心する。
映像の構図とか、撮り方もかなり前作を参考にしている感じ。映画シャイニングの威光を存分に利用しています。
もちろんオーバールックホテルが舞台の場面もたくさんあるんだけど、これもいちからセット作っているというのがすごい。有名なエレベーターホールに大量の血が流れて来るシーンは流用らしいけど、それ以外はすべて一から撮影しているというこだわりよう。
オーバールックホテルが全体的にすこし狭く感じるのはなぜなんだろう。撮り方なのか、セットの大きさなのか。
登場人物はみんなよくできてたと思う。主人公のダニーにはユアン・マクレガーがぴったり。すこし愛想が良すぎる気もするけど。
ヒッピー集団ヴァンパイア
あと敵役のヴァンパイア軍団もなかなか良かったと思います。
映画の最初で少女が餌食になるところでは、突然周りを取り囲まれる不気味さとか、リーダーのローズ率いるヴァンパイアたちはやっぱり昔のヒッピーを思わせる。
ローズは美しさと残忍さを兼ね備えてるんだけど、アブラの行方を突き止めるためにキャンピングカーの上で座禅の姿勢になるところとかいかにもヒッピーぽいし、不思議なのはその後の映像。ローズの精神が夜空をふわふわ漂ってアブラのところに向かうんだけど、この場面だけ妙に浮いてるというか雑な合成感があるというか、不思議なものになっている。この辺もよくわからないけどヒッピー感がただよっているような気がします。ジェーン・バーキンの「ワンダーウォール」をなぜか思い出した。
ローズを演じるレベッカ・ファーガソンは美しさと残忍さを兼ね備えてて、この映画で一番恐ろしいのは強いシャインをもつ野球少年がヴァンパイアたちになぶり殺される場面。小説でもそうとう残酷な場面だったけど、苦痛が多いほど輝きが増すという残酷な場面を真正面から描いていてゾっとします。
その他には、そんなに怖いという場面はない気がする。オーバールックホテルの場面についても、なるほどそう来たか、という感じで感心はしたけど怖い、ってことはなかった。
どのようにオーバールックホテルが登場するのか。
ダニーがとある町にたどり着いて、そこのホスピスで看護師として働くようになって、強烈なシャインをもつアブラの存在を知り、彼女に危機が迫っていることを知り、彼女を助けるためにヴァンパイア集団に立ち向かう、という基本的なあらすじは同じ。それをどう前作のシャイニングにつなげるかが最も気になるところだったのですが、なかなかうまいやり方でした。
ダニーは強大な力を持つローズを始末するために、さらに強大な力を持つオーバールックホテルにつれていき、ホテルに取り込ませればいいと考えたのです。
これ、ホテルに巣食う悪霊たちがその後もダニーを苛んでいたという事実から、ホテルがシャインを持つものを求めてるという解釈も成り立つし、ホテルの使い方も原作にもでてきたダニーの持つ「箱」の概念をさらに発展させたものでもあるので、なかなかいいと思いました。
それに未だに浄化されていないオーバールックホテルに行くことはダニーにとっても危険なわけです。そこでローズたちだけでなく、また別のスリルも生まれる。
というわけで原作+αのオーバールックホテルの場面は素直に面白かったわけですが、しかしそんなことしなくても決着つけられたんじゃない?というもやもやした気持ちが抜けきれないのは確かです。
さらにvsヴァンパイアにかこつけて、ダニー自身の過去との決別が突然語られているような感じがしてちょっと座りが悪いような気もする。
ダニーがオーバールックホテルに向かったのは最初からローズに対するためだけでなく、自分のためでもあったのかもしれないけど、そこをもう少し名言してほしかった。とくに父親との葛藤については、ここにきて突然出てきた気がする。
オーバールックホテルのシーン単体で見るといいんだけど、全体の物語の中でちゃんとつながってるかな。そこが気になる。
あとやっぱり、ヴァンパイアたちが弱っちくて、太古から生きてきた魔の一族が絶滅してしまうなんて、可哀想に思ってしまう。かれらの生態も、ただ悪人というだけでなくなかなか魅力的に描かれているからそう感じるのでしょうか。
まとめ
なんだかんだ言ってとてもおもしろかったのでもう一度みたいです。再見することでラストのオーバールックホテルの個人的に感じる収まりの悪さが解消されるかどうか。
あと、「シャイニング」で有名な236号室の老婆。もちろんドクター・スリープにも登場するのですが、彼女の使われ方もなかなか好きです。「リング」の貞子的ないじられ方で最後は愛嬌さえ感じました。
ラストも好き。原作のラストとは全然ちがうんだけど、こっちもありかな。