北朝鮮ドキュメンタリー「プロパガンダ・ゲーム」の感想

スペイン人の監督が実際に北朝鮮で取材したドキュメンタリー映画。スペイン人で北朝鮮に非常に親しい人物がいて、監督はかれのつてを頼って取材交渉をした。

交渉にかなり時間がかかったそうだが、なんとか招待されて取材することに成功した。正式な招待で、潜入取材ではない。つまりこれは、昔のロシアとか中国共産党に招待されるのと同じで、どこにいっても見せられるのはお上の指導の元に演出される素晴らしい我が国というパターンですね。

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常に北朝鮮ガイドに付きまとわれる撮影隊。

見てみるとやはりその通りで、取材班には専属のガイドが片時も離れずついて回り、行く先々で人々の幸せな生活ぶりや、国民が指導者を心から崇拝している様子が撮影される。取材班は人々の本音を探ろうと町ゆく人にインタビューするが、やはりみなそれなりに満足している様子。医療も教育も全て無料だし、生活必需品は基本的に政府から無償で提供されるし、税金もないし、退役軍人は恩給?がもらえて、食べ物どころか家さえもタダでもらえるそうだし、将軍様への忠誠で国民の心が一つになっている様子には感心させられるし、宗教の自由もあり、キリスト教の教会もあるし、髪型を金正恩と同じにする必要など無く、床屋さんに行けば何種類もの髪型から選べるし、もちろんもっと細かくカットの指示をすることもできるし、だんだん北朝鮮がこの世の楽園に思えてくる・・・。

たぶん、取材先はすべて決められていて、その地域に外国から取材が入ることも事前に知らされていて、最大限北朝鮮の良さをアピールするようにセッティングされているんだろう。取材班は基本的にガイドの指示通りに取材をさせられているようで、「私達も北朝鮮は素晴らしい所だとわかりはじめました」みたいなことをつぶやいたり、ガイドが離れると「やっといなくなった」とつぶやいたり、自由な取材ができないことに対するフラストレーションがたまっていることは見て取れる。

不自由な撮影の代わりに、幾つものインタビュー映像が挿入されます。

ときどき現実が垣間見えるような場面はあるものの、取材中にその虚構を暴くようなシーンはない。その代わりに、そこかしこに北朝鮮研究者や人権団体や脱北者などのインタビューを挿入することで、映された現地の様子が北朝鮮の真実を反映してはいないことを表明する。可笑しかったのは、医療も家もただという軍人のインタビューに対して脱北者がいったこと。「医療はただでも薬がない、家はただでも住む場所は選べない」

実際の住民の様子。

北朝鮮での実際の生活について。他のメディアなどの情報と比べればインタビューで語られたような素晴らしいことはほとんど冗談みたいなものだとわかるけれど、実際の暮らし向きも、90年代の経済危機当時ほどではないにせよ、よくないだろう。それでも、北朝鮮の人たちは偉大な将軍様を本気で信奉し、主体思想などの教育を真面目に考えているらしい。

ガイド役の女の人は英語ぺらぺらだったけれどアメリカが攻めてくるから軍備が必要と真顔で言っていたし、多くの人はこのドキュメンタリー内で賛美されている北朝鮮像を半ば本気で信じているかもしれない。

これは国の教育の賜であると同時に、外部の情報がほとんど入ってこないことによるそうだ。つまり市民は大本営発表しか聞かされない。インタビューされた学者が言っていた、周りの国はどこも北朝鮮の崩壊など望んでいない。一番望んでいるのは北朝鮮の国民だろう。という言葉はそのとおりだなあと思った。

悲惨なのは道化役のスペイン人か?

最後に、この取材ができるきっかけにもなったスペイン人について。映画中でもたくさん登場するこの人は、若い頃に北朝鮮の高官と出会い、その「才能を認められ」、北朝鮮と他の民主主義国の架け橋になれるというかもしれないことで、北朝鮮のために活動しているそうだ。

北朝鮮とスペインのどっちに住んでいるのか分からないが、取材班と一緒に北朝鮮で行動していた。そして彼は完全に北朝鮮の代弁者となって、その素晴らしい国を宣伝する宣伝塔としての役割をおそらくは無自覚に果たしていた。

北朝鮮としては拉致なんかよりずっとスマートな方法で、自分側に取り込み志願兵に仕立て上げることに成功したようなもので、彼のお母さんによるとこのスペイン人は北朝鮮の政治にも関わっているらしいけれど、本人は北朝鮮にいる間は丁重にお客さん扱いされてうまく使われていることに気付いてないんだろうな。息子にはとりたてて何の才能もないのに、といっていたお母さんの言葉・・・。北朝鮮のいろんな行事に参加してなんとかかんとか、マンセー!と叫んでいる彼の姿は、北朝鮮国民へのインタビュー以上にこの国のプロパガンダをよく現しているようでした。

ちなみに、劇場公開、ビデオレンタルなどはされていないのではないかと思います。ネットフリックスで見ました。

  • プロパガンダ・ゲーム
  • (The Propaganda Game)
  • 監督:アルバロ・ロンゴリア
  • 2015年
  • 上映時間 93分
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