ホラー映画界の巨匠、ダリオ・アルジェントの代表作4作。「サスペリア PART2」「サスペリア」「インフェルノ」「フェノミナ」を見ておけば間違いない。

ダリオ・アルジェントはイタリアの映画監督で、主にホラー映画の監督として名高い。監督した映画でいちばん有名なのは「サスペリア」で、日本でもヒットした。凡百のホラー映画とは一線を画する独特な色彩感覚、音楽、突発的な演出にただのホラーではない作家性みたいなものが感じられて、他の月並みな監督とはひと味違う。

しかしアルジェントの映画のピークは「サスペリア」前後の数作に集中していて、それ以外はみなくてもいいようなものばかりだ。もちろんどれもアルジェントの映画には違いなく、アルジェントらしさは感じられるが、個性が突出した数作以外は悪く言うと焼き直し、二番煎じ、凋落の証のようなもので、マニア以外には訴求力を持たない、アルジェント、またはホラー映画のファンだけがみればいいような物だ。もちろん、アルジェントのファンの多くはホラー映画のファンだし、その逆の例も多いだろうから、どっちにしても狭い世界で流通しているには違いないが、「サスペリア」は公開当時ホラーが流行っていたこともあるのか、狭い世界を超えて一般の映画ファンにまでアピールした。よく調べてないけど当時はホラーブームとかだったのかも知れず、そのおかげもあったのかも知れない。それでも心ある映画ファンならアルジェントという名前に今もある種の妖気を感じざるを得ないのは、時代を経ても古びない初期作の持つ力のおかげだろう。

では、アルジェントでみるべき作品を以下に列挙します。「サスペリア PART2」「サスペリア」「インフェルノ」「フェノミナ」以上。

人によって異論はある。「オペラ座/血の喝采」「スタンダール・シンドローム」「オペラ座の怪人」なども悪くないが、前の4作に比べるとどうにも犯罪推理物としてもプロットが雑(犯人、謎解きやトリックが適当)で物語として破綻していたり、粗が目立ったりする。アルジェントは、ホラーを撮る前から推理ものをよく撮っていて、そういうのが好きなのかよく意外な犯人とかトリックとかがでてくる。しかしその割にはトリックも雑で、意外な犯人も、意外と言うより無理のあるものが多かったり、思いつきは分かるけど説得力のある構成になっていない。それもまた味である、というのはファンの贔屓目で、知らない人が見たらしらけてしまうのではないか。みるべき作品だと思う4作でさえそうした欠点を免れてはいないものの、ショック演出や音楽の使い方など、そこから醸し出される映画の雰囲気がもっともアルジェントらしく、それを邪魔する瑕疵が少ない点でアルジェント作の代表と言えると考えた。

この4つの映画のアルジェント度はどれも高水準で、差はない。どれがベストかは人によって違うだろうが、それは単純にみた順番によるところが大きいのではないか。つまり初見のインパクトで、最初にみた物がもっとも印象に残るので、もっとも優れていると感じる。二番目以降はインパクトが薄れるので、少し劣って感じる。しかしこれでは、まるでアルジェント度=ショック度ではないか、ただのびっくり箱映画なのかと思われてしまうかも知れないが、半分くらいはそうかもしれないが完全にそうではない。でるぞでるぞ、と思わせて観客の緊張を高めていき、極限まで張り詰めたところででたーっとやるのがホラー映画の常套的な演出だが、アルジェントの映画はそういう撮り方になっていない。ある意味、観客のことを置き去りにして話が、画面が展開することがままある。逆説的だがそれがためにかえって観客を惹きつけてやまない。でるぞでるぞ式の場合、観客はその演出になれてしまい、安心して見ることができるようになる。映画側はなんとか観客を騙そうとして、でるぞでるぞ、でもでないぞ・・・と思わせておいてやっぱりでたーっ!とか変化を続けるが、やはりいつか観客離れてしまい、いたちごっこが続く。びっくり映画の場合、このように映画の図式が単純になる嫌いがあり、どうしても陳腐化が避けられない。つまり、乱暴に言うと多くのホラー映画は陳腐である。アルジェントは、そういう図式に当てはまらない。ある意味で観客は物語の埒外に置かれてしまい、映画は映画で勝手に進んでいってしまう。ホラー的演出も、感情を段階的に盛り上げていく通常の物ではなく、率直にいうと当惑させられるような物がおおい。わたしは「インフェルノ」を何回みても、さっぱり筋が理解できない。でもアルジェントで一番好きなのは「インフェルノ」だ。

それでは、4つの映画の見所を簡単に説明します。詳しい解説はここではしません。

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「サスペリア PART2」

「サスペリア」より前の映画だけど、日本では「サスペリア」の後に公開されたので、ヒットにあやかってこういうタイトルになった。お話としては「サスペリア」と無関係。

新聞記者が殺人事件の真相を追う話。その探偵物語としてのストーリーも比較的まともな感じで、使われるトリックもよくできていて、そこに猟奇殺人の猟奇ぶり、ちょっとした小道具やネタの使い方、撮り方の独自性が相俟って独特の雰囲気を醸し出している。超能力者がでてきたり、なぜか超自然の雰囲気がつきまとう。子供の書いた不気味な絵、機械仕掛けの不気味な人形とか、唐突に気持ち悪い。

なお完全版もあるが、冗長なので普通版のほうが面白いと思う。

「サスペリア」

ドイツの名門バレエ学校に入学する主人公スージーを待受ける怪異の数々。スージーを演じるのはジェシカ・ハーパー。

なぜ、どうしてそうなるのか分からないままに人が死に、屋根裏の天井から蛆虫がふってきたりと奇妙なことが立て続けに起こる。それ全部、青とか赤とか不思議な色彩の照明と独特なカメラワーク、あとゴブリンというバンドの独特なプログレっぽい音楽に彩られてる。

主人公のジェシカ・ハーパーは独特な美少女で、バレエ学校というとガラスの仮面みたいな、少女漫画っぽい雰囲気になるのかと思うけど、ならない。

青いアイリス(※映画のキーワード)の謎を解いたスージーは、学校が実は魔女の家だったことを知る。今までの出来事は全て魔女の仕業だったのだ・・・。後で振り返ると変でしょうがない話なんだけど、みている間はそれほど気にならない。ラストシーンはかっこいい。

ゴブリンの音楽もいいが、サントラをきくとそれほどでもない。映画のままの音楽の方がいい。例えば映画冒頭のナレーションとそれに続くタイトル、その後はスージーがタクシーに乗って学校に向かう当たりの音楽を続けて流すと、サントラにはない臨場感があって最高だ。なぜタクシーに乗っているシーンであの音楽が流れるのか、理解できない選曲だが最高だ。

「インフェルノ」

サスペリアの続編で、さらにスケールアップした魔女の活動が感じられる。しかし、何度みてもストーリーが理解できない。

肉屋のおじさんが、盲目のおじいさんに駆け寄っておじいさんを助けるのかと思ったらナイフで滅多刺しに。こういう突拍子なさ。

ラスト、燃えさかる館で全ての黒幕である魔女らしきお姉さんが「我が名は死神!」と叫ぶ→落ちてきた梁なんかと一緒に、家ごと燃えてしまう。あのあとどうなったんだろう。

ストーリーが意味不明でも映画の中で三人の魔女やいろんなことについて、断片的に、思わせぶりに、仄めかされるので、たぶん、こういうことが進行しているんだろうなと推測することはできる。キッチリあらすじをたどる代りに肉屋のおじさんや襲いかかるネコなどの超自然の怪異を挿入することで、夢幻的な雰囲気を漂わせている。それが心地いいので、主人公ががんばって何をしているのか、さっぱり分からなくても問題ない。なにかの真相を暴こうとしているんだな、というのは分かるし、分からない多くの点については何せ魔女の関わることなので私たちの理論を超越してしまっているんだな、という理解でいいのである。これがアルジェントのほかの作品では現実の殺人事件が題材になっている物が多い。そのため、超自然的な「ずる」が通用せず、インフェルノのようなノリでは破綻したプロットが目立ってしまう。なにをしても許されるのは、魔女だからなんです。破綻すれすれのプロット、それを破綻させない描写という点で、個人的にはこれがもっとも優れたアルジェント映画だと思う。

音楽はエマソン・レイク・アンド・パーマーのキース・エマソン。オーケストラも使ったりして、かっこいい。

この映画のフィルムはニューヨーク近代美術館収蔵。

「フェノミナ」

主人公はジェニファー・コネリー。助けてくれるのはドナルド・プレザンス。あと猿。あと虫。

冒頭、何かを繋いでいる鎖が壁から引き抜かれる。背景にはどっかの森林が広がっている。その場面がいい。

サスペリアの焼き直しのような話だが、魔女とかは出てこない。それでもどことなく人知を超越したおかしさを感じる。

主人公が蛆虫風呂に突き落とされる。実際にはチョコとかコーンフレークとかを浮かべて撮影したらしい。

音楽はアイアンメイデン、モーターヘッドとかヘヴィメタルはいってます。個人的には冒頭の物悲しい音楽がもっとも印象に残っている。

ジョン・トラヴォルタ主演の「フェノミナン」という映画とは関係ない。

インテグラ・ハード版という完全版が出ているが、バスの中でおばさんがごちゃごちゃクレームをつけるシーンが増えているくらいで、イタリア語の吹き替えになっていて違和感があるのでおすすめしない。通常版の方がいいです。

ちなみにアルジェントの娘はアーシア・アルジェント。アルジェントの映画にも主演しているけど、トリプルXのヒロインとかで有名。