映画「孤狼の血」の感想。

孤狼の血。映画館で特報を見たときには、なんか安っぽいVシネマみたいな映画だなという印象であまり面白そうに思えなかったけど、実物はそんなことはまったくなく面白かった。

暴力シーンがふんだんにあり、ヤクザだけでなく主人公の刑事もほぼ不当捜査しかしないというパワフルな映画。全体的に泥臭く、汗臭く、熱量の多い画面なんだけどストーリーはとにかく抗争したがるヤクザとなんとかそれを抑えようとする警察の話で、様々な駆け引きもあり、感情的な山場も、ちょっとした謎もあって、ただ乱暴に突き進むだけの話ではない。

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冒頭に過激なシーン。

夜の養豚場で街金の業者がリンチされる。ボコボコに殴られ、豚の糞を無理矢理食わされ、剪定バサミで小指を切り落とされる。それもスパッとではなく何度も刃を合わせてようやく。

映画の中でも暴力の度合いで行ったら一番くらいのシーン、これを冒頭に持ってくることでこういう映画ですよというのがよく分かるようになっている。ここをみて駄目だと思ったらあとを見なくてもすむ親切設計ですね。

あらすじ

舞台は暴対法施行以前の昭和63年の広島。わざと昔の荒れた東映ロゴを使ったり、過去の抗争シーンではわざと昔のフィルム風の絵にしたり、「仁義なき戦い」風の往年のヤクザ映画を目指したということで、個人的にはナレーションの入り方にその雰囲気を感じた。あと60年台風の雰囲気もまあまあ出ていたと思います。

映画はヤクザ映画であり、警察ものかつバディものでもある。主人公である真面目な新人が型破りな刑事とコンビになって犯罪捜査をする。最初はほぼ非合法捜査しかやらない刑事に戸惑う新入りが、やがて先輩の思いを汲んで成長する。

わりとよくある話なんだけど、大筋は凝りすぎないでこれくらいのほうが見やすくていい。ただでさえヤクザ映画は意外と組ごとの構成員とか意外と把握が難しくて、一度見ただけだと誰だか覚えきれないこともよくあるから。それに主人公に裏の顔をもたせたり、刑事の過去の犯罪を匂わせることで興味を引いたり、単純すぎるということはない丁度いいストーリー。

でその物語がどう描かれるかだけど、これがとてもよくできていて全編大変おもしろく見ることができました。

アウトレイジとはかなり違います。

最近のヤクザ映画といえば「アウトレイジ」シリーズですが、「アウトレイジ」も過激な暴力シーンやバカヤローコノヤローの応酬が人気のくせに、全体としては冷たい印象があります。それはヤクザ同士が抗争の果てに崩壊していくさまを一歩引いた視点で淡々と観察しているからで、その態度が一番現れているのはビートたけし演じる主人公の大友。いろいろとひどいことをする主人公ですが、ただ上に言われたからやっているだけで、本人はそれに熱くなったりせず、淡々と任務をこなすだけ。

「孤狼の血」の主人公は真逆で、まず役所広司演じる大上はネタを挙げるためなら違法なことでも何でもやる熱血漢で、傍目には公私の境がわからないところも含めて全力を上げて刑事に取り組んでいるという印象を受けます。

それに加えて松坂桃李。大上に否定的だった彼が豹変するのも、そのきっかけになるシークエンスを含めてこの映画の情動性を際立たせています。もっとも、普通に映画一般で考えたら「孤狼の血」のほうが普通で、むしろ「アウトレイジ」が特殊なんでしょうね。

感想。

薬局のねーちゃんの役回りとか、なんで松坂桃李とこんな仲になるのかとかいう疑問にもちゃんと説明がつけられてるし、細かいところまでよくできてるし、いい映画だと思いました。

俳優の人たちも皆さん良かったと思います。関取と呼ばれる勝矢、真珠を取り出される音尾琢真。どうみてもシャブ中の狂犬を演じる中村倫也もよかった。あと偉い人では五十子役の石橋蓮司とか。石橋蓮司はアウトレイジのときよりも格上のヤクザ役で、貫禄もあるしなかなか一筋縄ではいかない人物だったのですがやっぱり最後はひどい目にあっていました。他にも、残酷なヤクザを楽しそうに演じる竹野内豊とか、どう見てもゆすりたかりを生業にしているようにしか見えない新聞記者役の眉毛の薄い中村獅童とか、キャストも豪華でした。

ただ、いくつか疑問点もあります。あとはネタバレになるので見てない人は気をつけてほしいのですが、

ネタバレを含む疑問点。

それはなにかというと、けっこう重要なところだと思うのですが、そもそもなんで大上がやられちゃったのか、ということです。五十子側にやられたというのはわかるけど、普通ヤクザがあんなふうに警察をやるか?

警察発表で大上は事故死とされていて、事実が隠蔽されていたので、警察上層部もなんらかの関与があった。となると、原因は大上の持っていた警察幹部の秘密に関連しているに違いない。と思うんだけど、なぜあのタイミングなのかがわからない。大上が謹慎後に一人で五十子たちと接触した際に睡眠薬を飲まされた、というのはわかるんだけど、とするとそれ以前に大上殺しOKという合図が警察側から出ていたはず。これはもう一度みて確認する必要があります。

あとついでながら中村獅童演じる記者が嗅ぎ回っていたくらいであのタイミングで自宅謹慎になるか?これもかなり疑問。警察署長は現場とは一線を画する保身第一の官僚側、というのはそれまでにもなんとなくわかるんだけど、だからといってヤクザ同士の抗争が目前に迫っていて、それを抑えられるのが大上だけという状況で自宅謹慎というのはいくらなんでもおかしいような気もします。

まとめ。

オープニングからエンディングまで、しっかり楽しめるヤクザ映画でした。役所広司が刑事で同じように過激な映画だと「乾き。」というのがありますが、あの駄作よりはるかに面白い。

警察とヤクザの熱めの関係とか、「仁義なき戦い」というよりは「県警対組織暴力」みたいですが、あれの熱っぽさと残虐描写、今風の演出がよくマッチしていて大変いいヤクザ映画になっていたと思います。地上波ではなかなか放映しづらく、また放映してもカットされまくりだと思うのでぜひ映画館で見るかDVD、BDで見てほしい映画です。

 

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