日本でもNetflixでシーズン2放映間近の「ストレンジャー・シングス 未知の世界」。
大ヒットしているドラマですが、日本ではNHKのドキュメンタリーみたいなタイトルでそれほど話題になっている様子はありません。しかし、これは、気にならない程度のホラー風味が入った大人も子供も楽しめるよくできた冒険活劇で、ヒットするのも納得できる。
追記:シーズン2見ました。シーズン2の感想は以下。
ストレンジャー・シングスの紹介
大雑把に言うと、スティーブン・キングからは「スタンド・バイ・ミー」「イット」「炎の少女チャーリー」、スティーブン・スピルバーグからは「E.T.」「未知との遭遇」なんかをネタ元に引っ張ってきて、1980年代の古き良き冒険活劇映画を作り上げた傑作。
時代設定も1984年とかで、映像の雰囲気もまさに当時の少年少女が主人公の「グーニーズ」とか、ああいう映画そのもの。
それ以外にも「サイレントヒル」とかの影響も感じられ、ほかにもいろんな映画への言及がそこここに散見されるけど、基本的にはキングとスピルバーグにオマージュを捧げたドラマとなっている。劇中で、たぶんだけど登場人物がキングのペーパーバックを読んでる場面があるし、「まるでスティーブン・キングの小説みたいだろ?」という台詞もある。
そもそも監督のダファー・ブラザーズ(ロス・ダファーとマット・ダファー、双子の兄弟)はキングの大ファンで「It(イット)」の映画化の際も監督させてくれとワーナーに掛け合ったくらい。
その後、テレビシリーズの可能性に開眼し、Itのドラマ化なんかも夢想したようだが、いかんせんまだキャリアのない若手だったのでそう簡単には行かない。ワーナーからも、実績がないという理由で監督希望を却下されているようだし。
ストレンジャー・シングスの企画も15社以上の局に断られ、子供向けの内容にするか、大人向けにするかして変更を要請されたりもしたようだけど、最終的に原案のままでネットフリックスでドラマされることになった。これによって、現在見られる、スピルバーグ風のテイストで主人公は子供たち、だけどだれもが楽しめるドラマが出来上がった。
メインストーリーは、突如失踪した少年を友人たちが探す、というものだけど、そこに政府の秘密実験、超能力少女、異世界への扉、謎の怪物、高校生の恋と喧嘩、といったティーン向けジャンル映画の要素がてんこ盛りになっている。背景に米ソの冷戦があって、服装なんかの面でも1980年代の雰囲気がよくでているのもいい。
詳しくは説明しないので見てほしいんだけど、主人公はマイク、ウィル、ダスティン、ルーカスの少年4人組。マイクの家でテーブルトークで遅くまで遊んだあとの帰り道、ウィルはなぞの怪物に襲われ行方不明になる。テーブルトークで遊ぶとかいわゆるオタクで、劇中でも負け犬呼ばわりされている。負け犬クラブと、それをからかういじめっ子が出て来るあたり、まんまItです。
シーズン1全体を通しての感想
大体のあらすじは以下の通り。
行方不明になったウィルは死んだものとされるが、主人公たちは無線からウィルの声が聞こえたりしたことで生きていると確信し、ウィルの捜索を始める。捜索中、マイクは坊主頭の謎の少女を見つけ、やがて彼女が不思議な力を持っていることを知る。
やがてウィルの遺体を発見されるが、ウィルの母親はウィルが生きていると頑なに信じ、姿の見えないウィルに呼び掛けようとする。ウィルの兄は、母がおかしくなったと失望するが、警察署長のホッパーはなにか腑に落ちないものを感じ独自に捜査に乗り出す。そして、ウィルの遺体が偽物であることを突き止める。
やがて、町に政府の秘密機関があり、なにか大掛かりな事態が進行していることがわかってくる。
全体を通しての感想。
序盤は少年の失踪という暗い話で、ちょっと重苦しい雰囲気になりがち。4話目くらいから登場人物の見ている向きが一方向に定まってきて、ノリが良くなってくる。序盤もつまらないというわけではなく、その反対で、全体を通してテンポはいいし伏線、出来事の紹介の仕方もバランスが良く、全8話でいろんな要素が絡んでくる物語をきっちり描いていて、いかにもって感じのオチもジャンルを踏襲していて好感が持てる。
政府の秘密実験で誘拐された超能力をもつ少女、とか、高校生のカップルが親に内緒で付き合ったりとか、少年同士の喧嘩と仲直り、とか、少年と少女の淡い恋とか、むかしどこかで見たようなお決まりのネタがバンバン出てくる。要素だけ抜き出すとある意味クリシェだけで構成されているようにも思えるけど、そのせいで安心してみていられるというのもある。さらに、実はそういうネタを詰め込んで緊密に構成してまとめあげる手腕というのはたいしたものなんじゃないか。
主人公の少年、その友人、主人公の姉、そのボーイフレンド、超能力少女、失踪した少年の母、疾走した少年の兄、事件を捜査する署長、秘密研究機関の博士、といった人物それぞれにかなりの出番があって、どれも同じくらい存在感がある。話が進むに連れてちゃんと盛り上がっていくし、一話一話の脚本もそうだけど、シーズン全体を通しての構成がよくできてるなーと思った。
キャストの紹介
キャストも、主役級はみんな子供で若手ばかり。でも、演技的には問題ない。やっぱりオーディションできっちり選んでるだけあって、個性的なメンツが揃ってる感じ。日本の映画やドラマもいい加減キャストにジャニーズとかエグザイルとか突っ込んでくるの止めてほしいですね。事務所の都合じゃなくて、オーディションやって役に合わせて決めてほしい。それが当たり前なんだけど。
キャストでは、とりあえず
ウィノナ・ライダー。ウィルの母親のジョイス・バイヤーズ役。
ウィノナ・ライダーは久々に見た気がするけど、もともとそそっかしいところに持ってきて息子が失踪してしまい、心配のあまりほとんど正気を失っているように見える母親を演じている。ちょっと大げさなんだけどこの演技はけっこうハマっていて、もともとウィノナってこんなキャラだったかな、と錯覚してしまう。まるでタイプキャストのように思える。
フィン・ヴォルフハルト。主人公マイク役。
主人公マイク役はフィン・ヴォルフハルト。劇中ではいじめっ子にカエル顔とバカにされるけど、爬虫類系のなかなかいい顔の若者だと思う。ここでもItとの因縁を感じるのは、かれが映画版のItでもオーディションに受かっていて、主人公の一人リッチー・トージア役を演じているということ。おしゃべりリッチー役というのはちょっと意外な感じ。主人公にふさわしい、万人向きの嫌味のない演技をしてくれる。
ゲイテン・マテラッツォ。主人公の親友ダスティン役。
主人公の親友の一人ダスティン役で、乳歯が抜け落ちてるので前歯がない。ゲイテンの場合、前歯がないのはかれの持病によるもので、それを逆手にとって役柄にも活かしている。ふとっちょ役なんだけど機械に強かったりして、主人公たちのなかでは意外としっかりしてる。
ケイレブ・マクラフリン。主人公の親友ルーカス役。
主人公の親友の一人で、ダスティンよりも付き合いが長い。一番しっかりものという役まわりで、それゆえに女にうつつをぬかす?主人公にあきれて一時は仲違いする。無線機を持って、バンダナを巻いて自転車で出撃する姿がランボーとか、何かっぽい。
ノア・シュナップ。主人公の親友で、失踪する少年ウィル役。
化け物に襲われて行方不明になる役。金髪碧眼、いかにも華奢な美少年といった感じで、ウィノナ・ライダーの母親役とよく似合っている。「ブリッジ・オブ・スパイ」にも出てたそうですが、正直おぼえてません。か弱い感じが視聴者の心配を加速させて、いいキャスティングだと思う。
主人公たちはみんな演技もいいんだけど、日本語吹き替えはちょっとたどたどしすぎるかな。もうちょっとリズムよく滑舌よく喋ってほしかった。
ミリー・ボビー・ブラウン。イレブン役。
施設から逃げ出してきた謎の少女役で、口が聞けないのかと思うほど口数が少ない。それでも表情で感情を表現できていて、演技を高く評価されているのも納得。あと丸刈りでどことなく国籍不詳の風貌も、秘密裏に組織に育てられていた実験体という設定によく似合っている。この役で評価されて、カルバン・クラインのモデルなんかもやってる。こんどはハリウッド版ゴジラの続編に出るそうだ。
デヴィッド・ハーバー。ホッパー署長役。
個人的にはいちばんおいしい役まわりかなと思う。最初は、都会から田舎に配属された警察署長で、まったくやる気がなくて横柄なだけのやつ、という印象。しかしウィルの失踪を調査し、それが家出ではなく事件だとわかると真剣に捜査を始め、実は有能な警官であるとわかる。実は、かれも過去に幼い娘を亡くしていて、ウィルの行方不明は他人事ではないのだ。署長の有能さが観客にだけ伝わって、劇中でまわりの人にとってはつっけんどんで横柄な署長でしかない、というのがにくい。これは単なる連想だけど、エピソード3だか4だかあたりでのかれの様子は、映画版「シャイニング」のジャック・ニコルソンを思い出した。ひょっとしてそれでキャスティングされたのか?と思ってしまった。
チャーリー・ヒートン。ウィルの兄、ジョナサン・バイヤーズ役。
ウィルたち少年がダンジョンズ・アンド・ドラゴンズとかに熱中しているオタクだとすると、こっちはオタクと言うか、離婚した両親とちょっとした鬱屈を抱える悩める若者。ジョイ・ディヴィジョンとかを聴いて、カメラが趣味で、人嫌いで、高校でも浮いてる感じ。弟の失踪に心を痛め、狂乱する母親にも心を痛め、なかなかの境遇。「ストレンジャー・シングス」の青春映画パート担当ですね。そんな彼が、カメラをきっかけにマイクの姉と急接近し、挙句の果てに怪物退治に乗り出すことになる。
ナタリア・ダイアー。マイクの姉、ナンシー役。
マイクとはいかにも姉弟って感じの、互いに互いの趣味が理解できない、親しい敵同士みたいな関係。学校ではいい成績で、体育系のスティーブと付き合っている。親友がウィルと同じように失踪したことがきっかけでジョナサンと接近し、なんとなくいい仲になりかけたところでスティーブに見つかり、喧嘩になり…という、青春映画パート担当の一人。CGのようによく動く眉毛がとても印象的でした。
ジョー・キアリー。ナンシーのボーイフレンド役。
フットボールかなんかをやってる、典型的な体育会系のイケメン役。ただし成績は悪い。ナンシーと付き合ってるんだけど、ちょっとしたいざこざが起き、その間にナンシーとジョナサンが同じ部屋にいるのを見てしまい。仲間と「ナンシーは売女」とか街中にいたずら書きをするというバカでもあります。それでもナンシーへの思いは真剣のようで、行いを反省し、バカな仲間と決別する勇気もあり、わりと良い奴という印象を受けます。青春映画パート担当ですね。個人的に、いちばん活躍したと思うのは終盤のエピソードで、釘をたくさん打ち付けた凶悪バットをくるっと回して構える一瞬。さすが体育会系、様になってるなと感心しました。
マシュー・モデイン。マーティン博士役。
「フルメタル・ジャケット」のジョーカー役だった人。懐かしい。「愛されちゃって、マフィア」とかにも出ている。クレジットタイトルの出方を見ると、大御所のゲスト出演みたいな扱いなんだろうか。アメリカでの立ち位置がよくわからないけど、なかなかいいキャラです。変態マッドサイエンティスト、というのではなく、冷酷無比に、飴も鞭も使い分けて実験を粛々と進める博士。実験体であるイレブンに自分をパパと呼ばせてるんだけど、これは研究所で育てられた超能力者、というお話ではよくある設定なんだろうか。
印象的なオープニング・クレジット
あと、オープニング・クレジットがなかなか印象的。ついつい飛ばさずに毎回見てしまう。カメラがゆっくりズームアウトしてStranger Thingsっていう文字が現れてくる画面にわざとノイズを入れて、さらにシンセサイザーの音楽で昔っぽさを醸し出している。出来上がったタイトルは、フォントがアメリカのペーパーバックみたいで、キングの小説か?みたいな雰囲気になる。(実際にキングの小説のカバーで使われていた書体だそうです。)それから文字にズームしていって、文字の部分が窓になって映像が映るのは、「デッドゾーン」みたい。
このタイトルもけっこう話題になっているようです。
まとめ
全8話。深刻すぎず重すぎず、過激すぎず、家族で楽しめる冒険活劇ドラマ。たしかに、スピルバーグ監督の映画みたい。最近はネット配信オリジナルドラマが流行っているけど、結構過激だったりテーマが尖っているものが多い中で、こういう王道ものでよくできているものは意外と少ないのでは。こどもはもちろん楽しめるし、子供だましにはなっていないので大人が見ても普通におもしろいと思う。
とりあえず、シーズン4まで決まっているということです。そろそろシーズン2が始まるので、見ます。