ダン・シモンズ原作「ザ・テラー」の感想。実話ミステリー+海洋物+化け物で、面白い。

アマゾンプライムで見られるミステリードラマ、「ザ・テラー」。

原作がダン・シモンズということで面白さはある程度保証付き、さらに制作にリドリー・スコットが関わっていて映像クオリティも上々か。という期待をこめて見たのですが、予想通り面白いドラマでした。

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エレバス号とテラー号の遭難事件に、しろくまを追加した。

物語は19世紀なかば、北西航路の開拓を目指す二隻の英国船が北極付近で遭難、乗組員が全員行方不明になったという実話に基づいています。実話っていうところがミソ。

三年分の食料を積み、当時最先端の装備を誇っていた船がなぜ遭難し、なぜ乗組員が全員行方不明になったのか。いわゆる未解決事件のように興味をそそる題材で、これまでもたくさんテレビドキュメンタリーやノンフィクションが作られてます。

その事件だけでも十分面白くなると思うのですがダン・シモンズの「ザ・テラー」では北極の自然だけでなく、さらなる脅威としてなぞのしろくまの化け物を設定し、さらにサスペンスを高めています。実際のところしろくまくんがいなかったとしても普通に実話物としても十分面白いとは思いますが、イヌイットの伝承で語られるしろくまお化けが登場することで状況が一気に困難を増し、画面にさらなる緊張感が生まれているのは確かです。

歴史物、人間ドラマとしても十分面白いです。

二隻の船が遭難するところから始まるわけですが、遭難の過程でそれぞれの船の乗組員、艦長を紹介し、二人の艦長の方針の違いや対立関係を手際よく描写していきます。

当時の船の様子や食事、乗組員や艦長の生活みたいなものも垣間見られて、そのへんの時代考証もきちんとしてそうでみていて興味深い。歴史ドラマとしてもいい題材になっていると思いました。もちろん北極。あたり一面真っ白の北極の景色とその厳しい自然も、当然物語の大事な要素になってきます。

ときどき、回想シーンなどでイギリス国内の場面が出てきますが、寒々しい北極から離れて19世紀の雰囲気たっぷりのイギリスの景色にホッとすると同時に、主人公たちが故郷からいかに隔絶しているのかが感じられます。

メインは人と人とのぶつかりあい。二人の艦長、指揮官と副指揮官との対立、不穏な動きを見せる部下と、北極で身動きが取れない船という閉じた世界の中での微妙な人間関係、感情の動きに注目せざるを得ない。

なお登場人物はほぼ全員男。むだな恋愛要素などが一切ないのもいい。二人の艦長、副艦長をはじめ、俳優はみなさんいい役者が揃っていると思います。

さらに、しろくまくん。人の顔をした巨大なしろくまが唐突に現れ、船員を襲う。こいつの強さも異常なんですが、物語の序盤で、いきなり遠征隊の指揮官であるエレバス号の艦長が殺されてしまうという展開もなかなかインパクトがあります。

サバイバル・ドラマという側面。

艦内での人間関係、そんなのを無視したしろくまくんの攻撃、そして常に厳しい北極の自然。こうした過酷な状況で、亡き指揮官の跡をついで遠征隊を指揮するテラー号の艦長、クロージャーの苦闘が描かれます。船が流氷に閉ざされた現状とりあえず北西航路は置いといて、なんとか春まで生き延びようとする。一種のサバイバル・ドラマですね。

しろくまくんの登場など、もちろんフィクションではありますが、実話が元になっているということでドラマ中の様々な出来事は現在解明されている事実に大まかに基づいて構成されているようです。艦長の死、隊員の鉛中毒、船の放棄、人肉食…。それが船員たちの駆け引きを通じて推進するドラマにたくみに織り込まれていき、閉ざされた世界の話ではありますが見応え十分です。

しろくまくんの正体

結局、このしろくまの化け物は何だったんでしょうか。化け物の正体についても、寡黙なイヌイットの女性になんとか聞き取り調査をしてそれがトゥンバックと呼ばれるイヌイットにとっての祟り神みたいなものだ、というのはわかりますが、それ以外の情報が明かされることはありません。

重要なのは、トゥンバックを鎮めるために必要な大切な何かを、序盤で失ってしまったということで、それがトゥンバックが猛威を振るう原因にもなっています。

そしてラスト近くのヒッキーくんの自分の舌を切り取ってトゥンバックに差し出すという行動。舌を生贄に捧げることが、トゥンバックを鎮める一つの方法であることはその前のイヌイットの描写からもなんとなくわかります。しかし、ヒッキーくんは失敗する。

結局、このしろくまの化け物がいったい何で、なぜそこにいるのかはわかりません。合理的に説明がなされるたぐいのものではないので、わからないままで安心してみていてかまいません。北極に昔からいる土着の化け物なので、日本の映画で鬼とか天狗がでた、みたいなもんなんでしょう。

普通の映画でとつぜん鬼が出てきたりしたら違和感がありますが、北極が舞台のサバイバル映画の中で、あまり馴染みのないしろくまの化け物がでてくるというのは結構効果的だと思いました。その得体のしれなさも、実話の不条理ともいえる遭難劇の雰囲気によくあっていて、逆にこの化け物にあーだこーだと合理的説明がなされていたらかえって興ざめだったのではないか。

まとめ

しろくまが出てくるという点では、リーアム・ニーソン主演の「グレイ」みたいな雰囲気もあります。あれは狼の化け物に一人また一人と殺されていく話でした。

二隻の船に分かれているので、どっちに誰が乗っているのか若干把握しにくいところはありますが、メインキャラクターはそれほど多くないので混乱するほどではないと思います。

むしろ、このドラマではナレーションもなく、極力説明を排して進行し、いろんな事象についてもいちいちわかりやすい説明をせずに進んでいくので、そういうのが苦手な人は途中でつまらなく感じることもあるかもしれません。でも、過酷な状況の中で徐々に疲弊していく船員たちの苦闘を見ているとついつい引き込まれるものがあると思います。

なお実際のテラー号とエレバス号はそれぞれ2016年と2014年に海底に沈んでいるのが発見されました。