「死霊伝説」の感想。キング原作、トビー・フーパー監督。

スティーブン・キングの初期の名作、「呪われた町」を「悪魔のいけにえ」のトビー・フーパー監督で映像化。

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キング初期の傑作の映像化。

「呪われた町」は、大きな悪に少数の善なるものが立ち向かうという類型的な物語の、ひとつの元祖といえるかもしれないお話で、広い目で見れば王道的な勧善懲悪ものにのっとったうえでホラーを展開するというある意味ジャンルものとしてけっこう狙った作風と言えると思います。これを書く上でキングが意識していたのがたしかゴールディングの「我が街、僕を呼ぶ声」で、おっさんが故郷の街に戻ってくるという似たような筋立てが頭にあったのは間違いないけれど、やっぱりこういう小説が念頭にある、という点でキングの意外にハイブラウな趣味がよくわかります。

そのうえで、実際の小説は通俗を通り越したホラーです。わたしとしては糞の役にも立たないメインストリーム小説よりもキングのほうがはるかに気高く挑戦的だと思うのですが、まあそれはそれとして映像化された「呪われた町」も意外と面白かったです。

トビー・フーパー風味のある手堅い佳作。

監督のトビー・フーパーは映画史に残る傑作「悪魔のいけにえ」を監督した以外、スピルバーグと共同でつくった「ポルターガイスト」が一般に知られているくらいであとはほぼ知られていないと思います。ファンなら「悪魔の沼」「スペースバンパイア」「悪魔のいけにえパート2」「スペースインベーダー」など同監督の作品が軽々と思い浮かぶことでしょうが、一般の人に知られているかというと疑問。「スペースバンパイア」は日本のテレビでもでも昔結構放送されていたようで、裸の美女がでてくるという点で記憶に残っていることもあるかと思いますが、全体としてみるとやっぱりマイナーな存在だと思います。

フーパー監督は「悪魔のいけにえ」を作り出したというだけですでに偉大なので他の作品が微妙でも見てる側は笑って許せるのですが、「死霊伝説」は意外といけてます。

この映画の良さの一つに、「悪魔のいけにえ」風味が感じられるところが挙げられます。制作も近い時期ということもあるのかもしれませんが、ドキュメンタリー風味の「悪魔のいけにえ」とドラマ仕立ての「死霊伝説」ではぜんぜん違うんですが、やっぱり同じ監督のせいかところどころにいけにえ風味が感じられて、それがわりといい感じの雰囲気を醸し出しているような気がします。

雰囲気的に一番重要なのがマーステン館。物語の舞台として重要な吸血鬼が眠る館ですが、ここの雰囲気がまんま「悪魔のいけにえ」のレザーフェイス家なんです。このまがまがしい雰囲気を持ってきた点もトビーのいいところと言えると思います。なんだったかな、ここでの撮影の裏話みたいなのをどこかで読んだんだけど、忘れた。ロケハンしていたらたまたま見つけた館がイメージぴったりだった、みたいな話。

化け物の姿など、見た目のインパクトも十分。

そしてこれは賛否両論ありますが、概ね賛だと思うのが吸血鬼の造形。キングは不満だったらしいですが、この映像化の吸血鬼は白塗り白目の禿頭に牙を生やした、まさに邦題の死霊という呼び名がしっくり来る気色悪い化け物になっています。見た目はそのまんまムルナウの「吸血鬼ノスフェラトゥ」なんですが、見た目通り粗暴なホラーの化け物っぽい雰囲気になっています。

キングの原作では、吸血鬼は田舎町に越してきたダンディでハンサムな紳士という設定で、それはそれで威圧感、恐怖感が感じられていいんですが、ドラマ版の見た目の怖さ、言葉の通じない化け物感というのはなかなかインパクトがあります。

あと吸血鬼化しちゃった人たちのメイク。白塗りに白目のコンタクトレンズを入れた、ちょっと怖い感じのメイクで、これもおぞましい雰囲気が出ている。

このへん、あえて原作と離れて映像としての強さを選んだのも、個人的には好ましいと思いました。

まとめ

もともとがテレビ映画ということなので、わりと尺も長くて原作をそれほど端折らずにうまく映像化できていたと思います。「悪魔のいけにえ」はレザーフェイスに追いかけられる直接的な恐怖のインパクトが強すぎたのですが、よく見るとレザーフェイス一家での力関係の描写、親父と弟の異常性、あと追っかけられる若者側のちょっとしたやりとりとか、ガソリンスタンドの窓拭き係とか、細かいところも実はきちんと作りこまれているのがわかります。

「死霊伝説」でもその手腕が遺憾なく発揮されていて、登場人物が何人もいる物語をけっこうきれいにまとめたな、と評価できる映画になっていると思います。映画とちがってテレビ映画なので尺も足りてるし、物語はかなり原作に忠実に作られ、さらに画面映えするように見た目のインパクトでも攻めてみました、という感じ。フーパーらしさ(というか「悪魔のいけにえ」っぽさ)も感じられて、これはこれで悪くないと思いました。

というわけで、「死霊伝説」というキワモノっぽいタイトルに惑わされずに見てみると意外と面白い、なかなかよくできた映画でした。

その後、リメイクの「死霊伝説 セーラムズ・ロット」というドラマが作られましたが、これは前半退屈で後半はそれなりに盛り上がるドラマで、トータルでみたらまあ悪くないものでした。でも、「死霊伝説」とくらべるとやっぱり作家性というか、味がたりない。

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