ケネディ大統領暗殺阻止ドラマ、「11/22/63」の感想。キングの恋愛長編。最後は号泣。

1963年11月22日、ケネディ大統領が暗殺された。この暗殺事件がもしおきなかったら、今の世界はどうなっていただろう。ベトナム戦争も起きず、確実に世界はいまより良くなっていたはず。ハンバーガーショップの店長で、ケネディが死んだ日、世間の空気が一変したのを体感しているアルはそう確信している。ケネディが生きていれば、世界はいまよりずっとマシになっていたに違いない。アルは友人の高校教師ジェイクに頼む。ガンで余命幾ばくもない自分のかわりに、1963年に戻って大統領暗殺を阻止してくれ。

という始まりのスティーブン・キングの小説、「11/22/63」。

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ケネディ暗殺をタイムスリップして阻止するという、スティーブン・キングの力作。実は恋愛小説。

暗殺阻止、というテーマ、緊迫したサスペンスドラマが期待されます。それにタイムスリップというネタは、何度もどってやり直してもうまく行かずにますます自体が悪化する、というのが定番なので、さらに面白くなることが期待できる。それからタイムスリップものだと「バタフライエフェクト」「シュタインズ・ゲート」みたいに、悲恋の要素が加わることもよくある。

ジェイクは暗殺阻止のために1961年にもどって、そこで暗殺の実行犯であるオズワルドを監視する。この事件は陰謀説もたくさんあって、まずは本当にオズワルドが犯人なのかを確かめなければならない。FBIやCIAが関与していたのかもしれないし、実行犯が複数いた可能性もある。それを突き止める間、当然過去で生活する必要がある。ジェイクは経験を活かして高校教師の職に就くが、そこで運命の女性セイディーと出会ってしまう。

ジェイクとセイディーはすぐに恋に落ちるが、セイディーの夫(離婚調停中)がそこに暗い影を落とす。ジェイクも、暮らしていた時代が違うジェネレーションギャップがあるし、本来の任務のために傍から見たら怪しい行動を取る。はたして二人の行方は。

っていうのもあるし、過去は改変を望まない、というプロットデバイスがあって、それがサスペンスを生む。「シュタインズ・ゲート」でいうと世界線の収束?というようなもので、過去を変えようとしても、歴史は変えられまいと抵抗してくる。改変の度合いが大きくなるほど抵抗もますので、ケネディ暗殺といった歴史上の出来事を変更するには、そうとうの抵抗が予想される。はたしてジェイクは暗殺を阻止できるのか。

当然予想されるのは、暗殺阻止がセイディーに危険をもたらす、という展開なんだけど、果たしてそれがどういう結末を迎えるのか。

これはタイムスリップものとして、実はサスペンスよりも恋愛要素に重きをおいた作品なんですね。キングの小説に出てくる恋愛は、だいたい一途な純愛と呼べるものが多い。「ダーク・タワー」の何巻だったかの解説で、栗本薫がキングは純情だと指摘していた。それは架空の世界を描くことに対する態度についての指摘なんで、それとは違うかもしれないけどキング小説の恋愛は一途なものが多い。112263はケネディ暗殺を隠れ蓑にした恋愛小説で、恋愛小説というより純愛小説といったほうが適切かも。そういう、ホラー作家ではないキングの側面も堪能できます。

キングは恋愛要素とサスペンス要素を、うまく調和させるというよりは無理やり一つの小説にぶち込んで、112263という大部な長編を書き上げました。その出来はさすがキングというもので、キング独自の世界観も保たれつつ、史実の扱いも手慣れたもので、ど純愛小説でもあり、サスペンスもある、という優れもので、往年のキングの筆力を久々に堪能できる傑作でした。

その、ドラマ版をようやく見たので小説との違いなんかも気にしながら感想を書きます。小説の感想は以下を御覧ください。

「11/22/63」の感想。スティーブン・キングのタイムトラベル物、ホラーではなく感動作。
久しぶりにスティーブン・キングにはまったきっかけ。久しぶりに読んだキングの”11/22/63”がおもしろかった。 昔、スティーブン・キング大好きだった。初期のものとリチャード・バックマン名義のものを結構読んだ。その後、あんまり読まなくなった。途中で「セル」とかいう小説をなんとなく読んだが、意味がよく...

かなり評判のいいドラマ版。原作の忠実な映像化で、シリーズ展開はなさそう。

まず、全9話の1シーズン完結のドラマで、基本的に原作に忠実なドラマになっている。人気原作のドラマだと、あわよくばシリーズ化を狙ったりしてかなり変えるものもあるけれど、112263は最初から小説をそのまま映像化することを目的に作られているということで、余計な改変はほとんどなく、きれいに完結したドラマになっている。

海外のネット上ではシーズン2もあるかも、なんて話題もでているけど、かなり評価の高いドラマだったから制作側は続編を望んでいてもおかしくない、とかいったレベルの話で、まずないでしょう。あったとしても「キャリー2」みたいなキングのお話とは無関係のストーリーになって、面白さは担保されないものになる。たぶん、ないでしょう。

わりと期待してみたのでハードル上がってましたが、面白かったです。肝心のエピソード1で、単刀直入なやりかたで主人公を1963年に送り込んでいて、これはなかなかいいかも、と思い、続くエピソードもそのテンションを保ったまま最後まで進んでくれました。そして最後は感動の涙。

全9話で、時間にすると8時間くらいもある。小説1作なら余すところなく再現できるのではと思うけど、実際には、端折られている箇所が結構ある。いかにキングの小説が濃いかわかります。

原作との違い。

例えばジェイクは、過去の改変が可能か試すためにも、ある行為を行ってから一度現代に戻ってくる。ドラマでは戻らずにそのまま過去で生活し続ける。そのせいで原作と比べるとちょっと性急な印象があるけど、一度現代に戻るとそこで物語が中断されてしまうので、これは仕方ないかな。

あとIt(イット)の舞台デリーとか、Itのベヴァリーとリッチーが出てきたりとか、そういうニヤリとさせられるファンサービスもなし。あっても

一番端折られているのは、ジェイクが過去に戻って、暗殺時点まで生活する数年間。ジェイクの高校教師としての生活と、セイディーとの恋愛部分ですね。ドラマでも、途中から恋愛ドラマかと思うくらいの展開だけど、原作はさらに濃い。

ジェイクが初めて、本当に1960年代に生きているという実感を得るきっかけになった、生徒に演劇を教える話とか、細かなエピソードが削られている。ただ、時間の経過とそれにつれてジェイクが溶け込んでいく様子はドラマは映像ならではのやりかたでスマートに描いていてよかったと思う。

セイディーと夫とのやりとり、その帰結も、かなりあっさりしたものになっている。原作での、セイディーの急性アルコール中毒とか、セイディーが負った怪我の治療費を賄うための有志のダンスパーティーとか、そのへんがなくなっている。

それでも、セイディーは魅力的に描かれているし、暗殺パートとのバランスを取るためにもこのくらいでちょうどよかったかもしれない。

一番原作と違うのは、ビルという男の存在。

原作にもいるんだけど、原作では序盤で退場する脇役。ドラマでは人物設定自体かなり変わって若くなっていて、ジェイクのパートナーとして一緒に暗殺阻止を企てる相棒になる。

これは納得できる。一人で黙々とオズワルドの行動を確認する姿ってどうも絵的に映えないと思っていた。ドラマ化を知ったとき、ひょっとしてアルが一緒にタイムスリップして主人公をサポートする展開になるのではと思っていたので、相棒役が登場したのにはそれほど違和感を覚えなかった。

そしてビルが、オズワルドの妻マリーナに恋をしてしまう…。ビルの行動、仕方ないよなと思ってしまう。佐々木蔵之介みたいな顔をしたビルは血気盛んだけどうぶで優しい若者として描かれていて、オズワルドに暴力を振るわれるマリーナに同情してしまう。そして毎日盗聴しているうちに、美人のマリーナを好きになる。

それだけならまだしも、ジェイクの知らない間にオズワルドの家に何度も訪問し、オズワルドと親しい友人になっていた。これが歴史の抵抗なのか?と思いますが、この筋書きはなかなかいいと思います。

暗殺当日の展開、その後の展開は原作準拠。

物語の終盤、63年11月22日の出来事とその後の展開は、概ね原作どおり。その後の泣ける展開も一緒。よく使われる「ジェットコースターのような」という形容がぴったりの原作でしたが、ドラマもまさにそんな感じ。終盤までは、あと残り2話で終われるの?と心配になるくらいの展開でしたが、ラストはあっという間でした。そして最後…。

原作との違いと、感想のまとめ。

ドラマ版を通してみると、暗殺阻止と恋愛をなるべく同時進行させようとしているのがよくわかります。そのせいでテレビ的クリシェが多用されていはいるものの、セイディーとの出会いも序盤に持ってきたり、改変に対して歴史がしっぺ返しをしてくるという点も、序盤からわかりやすく伝えて来ている。エピソード毎のキング的な濃さは薄まっているものの、全体を通してうまくバランスが取れていると思う。大きな変更点であったビルというキャラクターもうまく行っていたと思います。

ドラマではセイディーのトラウマエピソードを小さくしてして、主人公を助けるヒロイン、という面を強調しています。セイディーは新しいタイプの女性だ、というセリフも何度か出てきて、おそらく現代よりは保守的であっただろう1963年においても、セイディーのキャラが浮かないように配慮している感じ。原作ではまず主人公がセイディーを支え、その後、終盤でセイディーが主人公を支えるという同格化があった気がしますが、時間的にそれは厳しいと思うのでまあ悪くない変更でしょうか。

それからビルの存在、及び彼とオズワルド一家との交際。これについてはかなり冒険ですが、原作よりもドラマチックで良かったと思います。オズワルド絡みのシーンで、主人公一人で黙々と盗聴しているというのは絵にならず、かといって単に主人公の代理にビルを配するだけではつまらない。ビルとオズワルドとの間で何かしら起きるのはドラマ的に当然で、その結果、ビルがああした結末を迎えると。オズワルドの共犯者説にも繋がるし、それまでのビルのキャラ付けからしてもマリーナに惚れちゃうのも分かるようになっているし、いい改変だったと思います。

各登場人物の演技も悪くなかった。みんなセリフだけじゃなくて表情豊かに演じていて及第点だったと思います。

ベンチで間抜けな笑みを浮かべてチョコバーを食べてるオズワルドが、誰かの置き忘れた新聞でケネディが遊説に来ることを知る場面。この瞬間、ケネディ暗殺を決意したのかな、と思わせる場面で、このシーンが結構好きです。その後マリーナの元に帰って、ベッドに腰掛けている姿も印象的でした。

というわけで、評判通りよくできたドラマ化だったと思います。続編などありえない話であるものの、続編を見たくなる気持ちもわかる。

キャスト

主人公ジェイク=ジェームズ・フランコ

主人公ジェイク役はジェームズ・フランコ。初代「スパイダーマン」で、主人公の親友だけどダークサイドに落ちて悪役になった人。原作に惚れ込んで映像化権をもらえないかキングに掛け合ったということで、そういう経緯が監督の耳に入って主役に選ばれたそう。はっきりいって、似合ってます。

ただし、高校の教師のわりには四六時中怒鳴っていて、ガソリンスタンドの店員を恫喝するような態度をとったりもして、割りと粗暴な感じがします。普段はもっと物腰柔らかなほうが先生らしいのでは。

セイディー=サラ・ガドン

セイディー役の女優はあまり見たことない人。でも、よく似合っていた。わりと積極的で「進歩的」な女性をよく演じていたと思います。結構独立心のある役で、それが終盤のエピソードでも違和感なく感じられた。

ビル=ジョージ・マッケイ

まだ若手のイギリス出身の俳優。佐々木蔵之介に似ている。若さゆえの過ちみたいなのもでていて、良かったのではないかと思います。延々とオズワルドの盗聴をさせられて、その間ジェイクはセイディーといちゃついているなんて、鬱憤がたまるのも仕方ない。佐々木蔵之介に似ている。

アル=クリス・クーパー

ベテランのクリス・クーパーはエピソード1ですぐ死んじゃう。ただし、死ぬ前日(当日?)、タイムスリップしてからどう行動するべきか朝までジェイクに教え込んでいた。その会話がところどころでカットインされるので、わりと出番はあります。ベテランらしく危なげない演技。エピソード1で、主人公にハンバーガーを提供して厨房に戻って、数秒後に出てきたら一気に髭が生えて腰が曲がってよたよたしていたところがとても印象的。その数秒に、アルは過去に戻って2年を過ごしていたのですね。

オズワルド=ダニエル・ウェバー

独特な口元が印象的な俳優。「バンド・オブ・ブラザーズ」のダミアン・ルイスみたい。

トラブルメーカーではあるものの家族思いで妻子も愛している彼がどのように偏向を強めていくかも、本筋ではないもののわりときちんと書かれている。とくに、かれが暗殺を決意する場面。ここは非常に説得力のある絵になっていたと思う。

アネット・オトゥール

ハリー一家を救出するというサブクエスト遂行のため、主人公が寄り道する町の下宿先の女主人。信心深い、というより人にも自分にも厳しそうなタイプでちょっとクセのある役をアネット・オトゥールが雰囲気ありげに演じています。

最近見かけませんが昔はときどき出演作を見た気がする。ちなみに、テレビ映画版イットで大人になったベヴァリーを演じているのはこの人。そういう縁もあっての出演かもしれません。

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