おっさんになってから突如アクションスターとして開花したリーアム・ニーソン。そんな彼がまた一つ主演した映画、「誘拐の掟」。
でもこの映画、よくあるリーアム・ニーソン映画とちがって実はアクション映画じゃなく、退職した警官が主人公の探偵もの。そこがこの映画のいいところでもあり、割りを食っているところでもある。
原作はローレンス・ブロックの人気シリーズの一作。主人公は退職した警官、マット・スカダー。以前に映画化されたシリーズの別作品では、ジェフ・ブリッジスがスカダー役でした。
この映画、とても良くできている。原作付きのせいなのか、ストーリーはきっちりしているし、誘拐犯を突き止めていくスカダーの姿と徐々に明らかになっていく誘拐犯、それと被害者の身上も丁寧に描かれている。
カメラワークとか撮影も決まっていて、ほんとに良く出来てるなぁという感じがする。
しかし、それゆえになにか物足りない。おそらく少なくない観客が「96時間」を期待してこれを見るんだろうが、この映画にはアクションがあまりない。とくに「96時間」みたいな時間制限がある中でアクションシーンを連発しながらひたすら悪党を追い詰めていく映画と比べると、どうにも地味。
それも当然で、もともとこの映画はミステリー/犯罪もので、主人公は断酒中の私立探偵で、どことなくその佇まいにも悲哀がにじむ。ストーリーも驚くようなどんでん返しがあるわけでもなく、まあだいたい想定の範囲内で進んでいく。
どうしても96時間と比べてしまう。
そもそも「96時間」とはまったくジャンルが違うんだが…私もここで言及してしまうし、やっぱり同じリーアム・ニーソンということで、ついつい比べてしまうのも確か。そしてどっちといえば、受けが良いのは「96時間」のほうでしょうね。出来としてはこっちのほうがいい気がするけど。
個人的には、むしろスカダーの身の上とか全面に押し出してもっと辛気臭い話にして、もっと地味で人間的な物語にしたほうが逆に目立ったかも、と思います。映画はどちらかというと、そういう素材にきっちりアクションシーンとかを盛り込んで、現代のアクション映画として成り立たせようと頑張っている感じ。それは成功してるんだけど、そうすると多々あるリーアム・ニーソン映画のなかに埋もれてしまう…。
リーアム・ニーソンはとても使い勝手のいい優れた俳優だと思うけど、ここまで存在感があるとなかなか使いこなすのが難しいんだなと思いました。
誘拐犯はサディストで、結構ひどい。
主人公が妻を誘拐した犯人を探してくれ、という依頼を受けるところから始まるんだけど、誘拐された妻はすでに殺害されている。しかも、かなり酷い姿になって主人のもとに送り届けられる。
この、誘拐犯がかなりのサディストっていう設定がなかなかおもしろい。その後に起きる事件についても、その点がサスペンスを生む要素になっているし、主人公と誘拐犯の交渉シーンも短いけれど興味深い。
誘拐犯を演じるのはデヴィッド・ハーバー。「ストレンジャー・シングス」の保安官も、善人なんだけど心に問題を抱えていて物事に正面から向き合えない、という感じの役でしたが、ここではまた違った意味でヤバい、サイコパス的人物を演じてます。悪そうな顔がよく似合ってる。
あと主人公に調査を依頼する人の弟役、どこかでみたことあるなーと思っていたら、「ナルコス」の主人公、麻薬捜査官役のボイド・ホルブルックだった。一方では麻薬を取り締まる役で、一方ではヤク中。面白いですね。
まとめ
「96時間」がドラマ化されていて、アクションドラマとしてけっこう面白いけど、題材としてはシリーズものの原作があるこっちのほうがドラマ化には向いてるんじゃないか。
渋さのあるハードボイルドでよかった。
ヒット、というほど売れてないと思うけど、リーアム・ニーソンは似合ってたし、ひょっとしたら続編、というか別のスカダーものの映画化も、あったらいいなと思いました。