「死霊のえじき ブラッドライン」の感想。オリジナルとかろうじて共通点のあるゾンビもの。

前のリメイクは「死霊のえじき」とはまるで関係ないような話になっていた。今回のリメイクは、一応「死霊のえじき」のリメイクなんだな、というのがわかることはわかる。しかし全くの別物で、往年のファンはがっかりすること間違いない。さらに、低予算なのはしかたないとしてもロメロ版の雰囲気やテイストが微塵も再現されていないところに、往年のファンは呆れること間違いない。

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レビューサイトで評価0%。でも、最悪ではないと思う。

元の「死霊のえじき」を知らない人が見たらどう思うんだろう。たぶん、だれがみても支離滅裂でご都合主義的な映画だと思うことだろう。わたしの好きなレビューサイト、ロトントマト(腐れトマト)では、レビュアーによる好意的な評価が0%で、平均点は2.1/10でした。

しかし、ゾンビ映画の場合、ご都合主義もお約束として成立しちゃうところがあるので、チープな部分はありつつ意外と楽しめるかもしれない。

前半はかなりつらい。

冒頭、ゾンビが町にはびこっちゃって大変な事になってる様子が描かれるんだけど、この時点でチープな雰囲気がプンプン感じられます。予算のせいなのかな…?とりあえずゾンビに人が襲われるシーンを数点収めました、という感じなんだけど、なんというか全体像がつかめない。ちぐはぐな感じがします。

この点、オリジナルはすでにゾンビ発生からしばらく時間が経っている状況で、ボロボロにくちた新聞紙が散乱する様子を見せることで、荒れ果てた雰囲気がよく出ていました。このリメイクはなんか小奇麗に感じます。発生直後だから仕方ないのか?

あと、そこらじゅうで人がゾンビに襲われている状況で、主人公が携帯でお母さんと話しながらてくてく歩いているのもとても場違いな感じがします。

自転車に乗っていた女の人が、窓越しにゾンビに捕まるところはなんか笑えた。そのへんでなんかもうおかしい雰囲気が漂い始めていました。

それからゾンビに噛まれたときの血しぶきが大げさ。まるで銃で撃たれたかのようにバシャっと飛び散り、まるで銃で撃たれたかのようです。噛まれただけであんなに飛び散らないだろ。

あと、この映画のゾンビは走ります。ロメロ原理主義者的にはこれも減点ポイントなのかもしれませんが、まあ今どき、ゾンビだって走ってもいいかなと思います。ただ、この映画のゾンビは28日後とかドーン・オブ・ザ・デッドのやつらとちがって、がむしゃらに突進してくる感じじゃなくて、なんか爬虫類っぽいというか、捕まえるぞ、みたいな意思が感じられて変です。

その後、映画はゾンビ発生前の時点に戻り、大学での主人公の様子が映し出されます。

  • 主人公は医学部生。
  • 担当患者でもあるきもいストーカーに付きまとわれている。
  • 授業で使った、インフルエンザで死亡した男性の検体が突然蘇り、人を襲い始める。

ということがわかります。最初に死体が甦ったのを発見する主人公が、まるで最初からそれがゾンビで、噛まれたら感染するのがわかっているかのように反応しているのがなんかおかしい。

そしてパーティー中だった学生、職員が次々に殺され、ゾンビとなるのでした。主人公の友達はせっかくの美人さんなのに、ここで死んでしまってあとは出てきません。

それから5年後。隔離された軍の基地で事態の打開を目指しながら生活する主人公たち。少人数のコミュニティをなんとか維持していますが、肝心の軍司令部からの連絡はすでに1年以上途絶えている。

主人公は基地内では医師として活動しています。オリジナルではわかれていた、主人公とちょっとマッドなサイエンティストを混ぜちゃったわけですね。

そしてちゃっかり彼氏がいていちゃついたりします。この辺もなんというか、オリジナルの大事な部分を尊重できなかったんだな、というのがよくわかります。とりあえず感動的な場面ためにも主人公のロマンス要素は必須、という、思考というより反射的なプロット構築術により、とくに何も考えずに設定をつくっているのかな。オリジナルの恋愛とかそんなものが出る幕のない緊迫感、憔悴感はどっかに行ってしまいました。

最終的には、予想どおり主人公である医者がゾンビに感染しなくなるワクチンを開発して、噛まれてゾンビ化寸前だった彼氏に注射したら治って、という展開になります。

ワクチンができるきっかけは、主人公のストーカー。基本的に行き当たりばったりでご都合主義の展開なのですが、抗生物質が必要になって危険を冒して大学病院?に取りに行ったら、そこにたまたまゾンビ化した主人公のストーカーがいて、そいつが半ゾンビで、半ゾンビの血を元にしてワクチンができました。

強烈な印象の半ゾンビ。登場理由も、半ゾンビになった理由もよくわからない。

オリジナルでは、ドクターがゾンビにも知性があるのではないかという研究をしていて、その研究対象がバブという頭のいいゾンビでした。知能のあるゾンビというのは、ひょっとしたらその後のロメロゾンビの方向を決定づけていたかもしれない要素で、ランド・オブ・ザ・デッドでもそういう要素が使われていたと思います。

それがこのリメイクでは、マックスというこの半ゾンビになったわけです。これはちょっと驚きました。見た目はゾンビだけどどう考えてもゾンビじゃない。こいつは大学病院で主人公を見つけたあと、主人公たちの乗る車の真下にしがみついてきて基地に忍び込むのです。そしてゾンビとは思えない身のこなしで物陰に隠れ、基地内のダクトに潜入し、主人公に迫るのでした。

オリジナルではバブはある意味もっとも無害な傍観者で、基地は人間同士の争いによって勝手に崩壊していく。その皮肉なところも、オリジナルのいいところだったと思うんだけど、そういうのをなくして思い切り普通のアクション映画風の展開に振ってきたな、という感じ。それにしても、マックスのあの設定はなんなんだろう。基地に侵入するあたりの彼の行動を見ているだけでものすごい違和感を感じる。なんで彼だけ完全なゾンビにならなかったのか、そういう説明はない。

オリジナルの輪郭だけ借りて、中身は別物。

オリジナルで顕著だった人間同士の対立という要素は、なんとか入れています。マックスが実は主人公の恋人なのではと疑われたり、基地を指揮するミゲル大尉とワクチン製造の危険性を巡って言い争ったり。

ところで何で大尉の名前がミゲルなんだろう。ミゲルはオリジナルでは腕を切られるヒスパニック系?の人だったが。オリジナルで見事な最期を見せてくれたローズ大尉という名前は恐れ多くて、永久欠番的に使わないことにしたんだろうか。

最終的に基地内にゾンビがたくさん入ってくるのですが、それも中途半端に門を抑えてたら抑えきれなくなってゾンビに押し切られた、という感じでなんか間抜けな感じがします。

まとめ

この映画が他のゾンビ映画とちょっと違うのは、結局このワクチンのおかげで世界に平和が広がることを示唆して終わるところ。こういう、明るい結末のゾンビ映画って結構珍しいと思う。

ただし、ワクチンができるのはたまたまストーカー野郎がいたからだし、そいつがついてきた理由も、その他のなにもかもが行き当たりばったりなんで。

私はオリジナルは普通に好きなんだけど、このリメイクは映画の質が違いすぎて比べることができない。

とりあえず場面場面はきちんと演出されていて盛り上がるようになっているので、全体的な馬鹿らしさを気にしなければ意外と楽しめると思います。基地内のロケも、まあがんばってるんじゃない?

でも凡百のゾンビ映画のなかの一つ、という感じだな。冒頭ぜんぶカットしてワクチン作成にフォーカスを当てたらもっと違った、特殊な映画になりえたかもしれない。

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