「ダンケルク」の感想。戦場を体験するような映画。感動はしないが迫力はある。

2017/09/11追記:ノーランの「ダンケルク」、日本の感想がいろいろでてきたが、なんかおかしくないか?

「ダンケルク」は面白かったけど、戦争映画かサスペンス好きな人にお勧めできる映画であって、万人が涙するタイプの映画じゃない。それなのに、どうも一般的な(戦争、といった特殊ジャンルじゃない映画としての)感動ものとして宣伝しているレビューが多くて、すごく違和感を覚えた。

腐れトマトの98%とか、一部の絶賛レビューに踊らされているのでなければいいけど。

たしかに出来はいいけど、これはノーランのクラフトマンシップ、ちょっと変わった形の脚本をうまい形にまとめ上げた手腕が評価されているんじゃないかな、と思う。迫力はあるし、圧倒される部分もあるけれど、どっちかというと映画好きの人が感心する類の映画で、「めっちゃ泣きました!」「ノーラン最高!」とか映画館の前で見た人が出しに使われるCMがでるタイプの映画とはほど遠い。

その割には、一般的な映画としての感動レビューが多いようで気になったんだけど、確かにこの映画で感動する人も確実にいるのですべて間違っているとは思わないけど、見たとおりの感想じゃなくて、キャストの紹介とか良い面だけを発表した、単なる宣伝に堕していなければいいな、と思った。・・・まあ、そういうもんなのかもしれないけど。

以上、追記でした。

クリストファー・ノーランの最新作「ダンケルク」。アカデミー賞有力候補!とか煽っていたので見てきた。アカデミー賞をとるタイプの映画とは違うと思うけど、面白かった。

第二次大戦時、フランスのダンケルクという港町に追い詰められた英仏軍の撤退を扱った映画で、交戦ではなく撤退をテーマにした珍しいタイプの戦争映画。

明確な主人公とか、起承転結、起伏のある物語とかはなく、撤退にいたるまでのイギリス軍のあれこれを部分的に切り取ってつなぎ合わせたようなちょっと変わった映画になっている。ドキュメンタリー風、というわけでもない。「プライベート・ライアン」の冒頭の戦闘シーンとか、「ブラックホーク・ダウン」から、さらに登場人物の個性(キャラ付け)とストーリーを排した感じで、戦地から逃れようとする兵士、撤退を助けようとする人々、撤退を支援する航空部隊のそれぞれを交互に映している。演出しているというより、ただ映している、という感じ。かえって臨場感がある。

戦争映画だけど、激しい戦闘シーンなんかはない。イギリス軍は浜辺に集結して撤退を待っているだけで、防衛線を守るフランス軍の交戦はときどき銃声が聞えるだけ。主に戦闘機同士の戦闘が描かれる。

血生臭い戦闘シーンがないので気楽に見られるかというとそうでもなく、むしろ冒頭から全編緊張感ただようシーンが続く、疲れる映画。逃げ場のない浜辺でも容赦なく爆撃され、ようやく船に乗り込んだと思ったらやっぱり爆撃されたり魚雷を撃たれたりしてどんどん沈み・・・気の休まるところのない映画です。

映画はおおまかに陸海空の3つのパートに分かれていて、一つは撤退しようとするイギリス軍を描いたもの。もう一つは、ダンケルクに自ら兵士の救助に向かう、イギリスで遊覧船を運営している親子の話。もう一つは撤退を手助けするため、ドイツの爆撃機と交戦するイギリス空軍。

この3パートが多少時間軸をずらしながら同時進行で描かれる。「インターステラー」の後半、凍った惑星でマシュー・マコノヒーとマット・デイモンが取っ組み合いをしているシーンと地球でマシュー・マコノヒーの子供たちが対立しているシーンがカットバックで交互に描かれるけど、あの感じがずっと続いている。そこに流れるのは明確な喜怒哀楽にあわせたメロディーではなく、どちらかという効果音の延長のような不穏な音楽なので、つねに緊張感がある。

登場人物も、単なる兵士、といった感じの扱いが多くて、名前もほとんど呼ばれない人が多いと思う。

陸のパートではイギリス兵のトミーが主人公だけど、かれはなんとか戦地から逃れようとする一兵卒で、逃れようとあちこち動き回る度に災難にであって大変。最初に撤退する輸送艦に乗ろうと、爆撃後の浜辺で負傷した兵士を乗せた担架を見つけてなんとか輸送艦に駆けつける。ぎりぎりで間に合ったものの、乗せられるのは負傷兵だけで、トミーは下船させられる。その後も、乗った船が魚雷で沈没したり、座礁した商船を見つけて乗り込んだもののドイツ軍に撃たれまくったり。

銃も持っていないし、ひたすら逃げまどうという珍しい戦争映画の主人公。

海のパートはもう少し物語性があって、主人公はイギリスで遊覧船の船長をしている初老の男性。かれと息子、あと手伝いの若者が登場する。ダンケルクからの撤退では、波止場も破壊されて大きな輸送艦が直接浜辺に近づくことができなかったので、民間から徴用した民間船なんかがやまほど使われた。遊覧船の船長は、徴用される前に自分で船を出してダンケルクに向かう。

彼は兵士ではないのだけど、イギリス空軍の戦闘機に詳しく、空軍に誇りを持っているのがわかる。途中で救出した兵士(キリアン・マーフィー)がシェルショック状態でダンケルクには二度と戻らないと怯えるのを尻目に、ダンケルクを目指す。

空のパートは一番戦争映画らしいかもしれない、戦闘シーンのあるパート。3機編隊の戦闘機が乏しい燃料の中ダンケルクの支援に向かう。トム・ハーディが演じる主人公は何機もの敵機を撃墜して一番戦争映画のヒーローっぽい。

全体で2時間程度で、大作映画にしてはめずらしく2時間以内に収まっているのでありがたい。緊迫シーンが続くのであまりながく続いたら疲れるし、観客の集中力が途切れてしまうので、丁度いいと思う。でも、起承転結といった他の映画によくある構成とは違うので見ていて時間の経過具合がわからず、結構あっというまに感じる。

明確な主人公はいなくて、はっきりしたヒーローもいなくて、撤退作戦を指揮して成功させるまでの紆余曲折、といったストーリーもない。どっちかというと「ゼロ・グラビティ」みたいな、見ている間息が止まるようなサスペンス映画で、さらに戦争映画の迫力が加わっている。

万人が涙するような物語じゃないし、難病ものでもないのでアカデミー作品賞は取れないと思うけど、そういうの関係なく見る価値はあると思う。「インターステラー」は人類全体の話を親子の物語に集約していて、感動度でいったらあっちのほうが感動すると思う。「ダンケルク」は名もない一人一人の努力によって国が動いているという話で、最後はチャーチルの、撤退したのに力強く、奮い立たせられる演説で締められる。

出てくる人たち、とくに陸軍の兵士はほとんど誰だか分からない。新人を使ったらしい。これは見ている人もほんとの戦場に紛れ込んだような雰囲気になって、効果的。有名俳優ばかり出てくると、映画と観客の間にあるフィクションという隔たりをどうしても意識してしまう。この映画は感情を抑えた音楽もあいまって、その隔たりを見えづらくしている。

ケネス・ブラナーが海軍の偉い人役で出ている。随分貫禄がついた気がします。それとキリアン・マーフィーがシェルショック状態になった兵士の役で出ている。空軍の戦闘機乗りはトム・ハーディ、かれが一応、役割でいったら英雄役。それと、民間の船でダンケルクに向かった勇気ある船長はマーク・ライランス。この人は「ブリッジ・オブ・スパイ」に出演していました。

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