「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の感想。フォレスト・ガンプのリメイク、ではなく、フィッツジェラルドの短編にゆるく基づいた映画化だそうです。

監督がデビッド・フィンチャーってのを知らなかった。さらに原作付きで、原作がフィッツジェラルドってのも知らなかった。

原作の存在すら知らなかったけど、短編小説で、映画とはかなり違っているみたい。

細かな比較は以下のサイトに書いてあった。

The Curious Case of Benjamin Button – Differences between the movie and the written story
The premise of this comparison should be prefaced by noting that the cinematic film “The Curious Case of Benjamin Button” is loosely based on the nove...

(更新が2014年で止まっている…)

これを読むと、ほとんどまるっきり違う話になっているようだ。共通点は、生まれたときに老人の外見で、成長するにつれて肉体的に若返っていくという主人公の設定。あとアメリカが舞台ってのも同じか。それ以外は、時代も、登場人物も、人々のつながりも、物語のトーンもかなり違うみたい。このブログの情報から知られる限り、原作はいかにもフィッツジェラルドらしい短編になっている気がする。

設定だけ借りて、あとは自由に創作したという感じ。

映画はジャンルでいうとファンタジーになるのかな。

ベンジャミン・バトンという、老人の姿で生まれて成長するにつれて肉体的に若返っていく男の生涯を描いた映画で、とうぜん人生とは、みたいな話になってる。

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フォレスト・ガンプみたいな映画。

で、だれもがちょっと思うとおりにこれは「フォレスト・ガンプ」みたいな映画で、なんと脚本も「フォレスト・ガンプ」と同じ人が書いている。「フォレスト・ガンプ」の変奏といってもいいような、同じタイプの映画。

フォレスト・ガンプが歴史上の有名な人、出来事に遭遇していくのに対して、ベンジャミン・バトンが体験するのはもっと個人的なもの。第二次世界大戦には巻き込まれるものの、それ以外はほぼすべて、田舎の、身の回りの人たちとの関わりが中心となる。出来事も派手派手しいものじゃなく、淡々としている。フォレスト・ガンプに比べるともっとしみじみとした、描くものの質が違っているような感じ。

フォレスト・ガンプとの類似点はほかにもいろいろあるので、気になった人は見比べてみてください。どっちも主人公のナレーションで語られるとか、主人公がどちらもなんらかのハンディを負っているとか。

徐々に若返る男が主人公のファンタジードラマ。SFぽくもある。

主人公の設定からは、少年なのに老成したギャップみたいなものが描かれるのかと想像したんだけど、それはなかった。むしろ、老人みたいな外見なのに中身は純真な少年であることは、まわりの人からよく思われみんなに愛されるキャラとしての理由付けになっているみたい。原作ではむしろ逆で、みんなに疎まれ孤独な人生をおくることになっているので、その点だけでもいかに原作と映画がちがうかがわかる。

ベンジャミンの生涯に転機が訪れるのは、タグボートの船員として働き始めてから。ここでかれは金を稼ぐことを知り、女を知り、異国を知り、ロシアで愛する人に出会う。これがティルダ・スウィントン演じるエリザベス・アボットという人妻。

ティルダ・スウィントンが出てるのも知らなかった。相変わらずいい役ですね。かつて英仏海峡を泳いで渡ることに挑戦したものの失敗したというなかなか面白い人物。ベンジャミンは、タグボートの仕事で滞在しているロシアのホテルで彼女とであい、徐々に親密になっていく。そして、かれは初めて女性に愛されることを経験する。

しかし彼女は書き置きを残して突然ホテルを去り、同時に太平洋戦争が始まる。タグボートの船長は戦争に参加することを決め、ベンジャミンも戦争に巻き込まれる。

紆余曲折を経て幼馴染だった女性(ケイト・ブランシェット)と幸せな家庭を築くはずだったベンジャミンですが、やはり徐々に若返っていく彼の特異体質のせいで、かれは家庭を去ることになります。

ベンジャミンの生涯を描いた物語なので、最後はどうしても死んでしまうことになります。老人のように生まれ、赤ん坊のように死んでいく定めの彼は、最終的には少年の姿で痴呆症となり、やがて言葉もしゃべれない赤ん坊になってしまう。

痴呆の老人が赤ちゃんみたいになるというのはよく見聞きするけれど、この映画では文字通り赤ん坊になる。ある意味で、老人の晩年を美化したものの極致とも言えるかもしれない。

冒頭で、時計職人のガトーの話が語られる。針が逆回転する時計を作った彼は、そんなふうに時間が巻き戻って、戦争で死んだ若者たちがここに帰ってきてくれたらいいといった話をする。

その後の映画でも戦争はでてくるけど、ガトーの話とはあまり関連がない気がする。ベンジャミンは肉体的には若返るけど、時間を遡るわけではない。

ガトーの話も、ベンジャミンの若返りも、結局は時間を遡ること、過去に帰ることはできないんだということの表現なんでしょう。だからこそ最後に振り返ったとき、去っていった者たちが神々しく思い出されるのだと思います。そういうことをいいたい映画だったのかな。

だんだん若返るブラッド・ピットはよかった。

ケイト・ブランシェットも、最初はお肌つるつるで最初に画面に写った時は別人かと思った。その後徐々に老けていく。

ティルダ・スウィントンはちょっと神経質っぽいけど徐々に主人公と打ち解けていく姿が似合っていた。

最も気になったのは、ベンジャミンを老人ホームの入り口に捨てた彼の父親。ジェイソン・フレミングという俳優で、インパクトがあるようなないような顔をしていて、いろんな映画に出てるはずだけどあまり記憶に残らない。でも、ロメロ監督の「URAMI」に主演したのは覚えてる。これはあまり評判のよくない映画だけど、個人的には好きだ。「URAMI」はファンタジー映画なんだ…。

長いけど、まあ面白い映画です。

という感じで語られるベンジャミンの話、165分は結構長いかな。でも出来事に意外性はあるしテンポもいいので退屈したりダレるってことはあまりないと思います。

特異な人物の体験を通すことで、普遍的な感情がよりシンプルに描かれるという点はうまくいっていると思います。最終的なかれの生涯の締めくくりらへんも、ちょっときれいすぎるような気もしますが、ファンタジーであればとくに問題ない。あ、若返るという設定、人によってはSF的に思えるかもしれませんね。

それから映像がきれい。画面の構成がよくて、色使いなんかも含めて派手ではないけれど落ち着いたいい雰囲気がある。

映像でいうと、物語の要に関わる特殊メイク。これもよく出来てると思う。老人メイクはシワとかをくっつける関係で、どんなによくできたメイクでもどうしても顔が全体的に丸くなってしまうという問題があって、それは仕方ない。ガリガリに痩せるタイプの老人メイクを見たことがない。この映画では主役のブラッド・ピットの老け方が、ちゃんと段階的に、不自然じゃなく変化していってる。

さらに、若返りのメイクもいい。これはCGも使っていると思うんだけど、ブラッド・ピットが青年のように見える。ブラッド・ピットだけじゃなくて、若い頃のケイト・ブランシェットもシワひとつないつやつやな肌をしているし、逆にちらっとテレビにうつる晩年のティルダ・スウィントンはちゃんと年相応の老け方に見える。

この映画ではとくに大事なメイクだけど、ここは良かったと思う。

フォレスト・ガンプが面白いと思った人ならいいと思います。後半を見ていて、ポール・オースターを思い出した。なにか似ているところがあるのかもしれない。

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