「ダーク・タワー」原作の紹介。スティーブン・キングの長編ファンタジーで、多分映画とはだいぶ違う。

2018年1月公開の映画「ダークタワー」はスティーブン・キングの超大作「ダーク・タワー」シリーズが原作ですが、原作ファンからの評価は芳しくない。

「ダーク・タワー」はアメコミにもなったり、また映画化されたりしたことからもわかるように、キングのファン以外にも割と一般的にも人気があって、関心の高いシリーズです。でも、キングファンにとっては聖典みたいなもので読んでて当然かもしれませんが、相当長いので読む気がしないという人もたくさんいると思います。さらに今回の映画化は原作とは相当違うストーリーになっているような気がします。

そこで、映画は完全に無視して原作の「ダーク・タワー」を紹介します。

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そもそも、「ダーク・タワー」とはどういうシリーズなのか。

とりあえず、概要を。

よく知られているように、キングの小説は同じ世界や地域が舞台で、それぞれが互いに関連していることがよくあります。ある本の登場人物が別の本で登場したり、ある本で起きたことが別の本で紹介されたり。そういう小ネタを拾うのも面白いんですが、ただし全ての話が同じ時間軸にあるわけではありません。「IT」の主人公が「11/22/63」に登場したり、直接同じ世界を舞台にしているものもありますが、ある本では、「シャイニング」という怖い映画がある、と紹介されたり、別の本では映画「クリスティーン」やテレビドラマ版の「IT」に言及されます。さらにはメイン州のバンゴアに怖い話ばかり書いてるイカれた小説家がいる、というふうにキング自身について言及されることもある。つまり、直接つながっているものもあれば、一部はパラレルワールドになっているものもある、のだと思います。

そして、「ダーク・タワー」の世界は、それらすべてを内包するものとして位置づけられています。つまりキング・ユニバースの中心。「ダーク・タワー」でも他のキング作品がいろいろ言及され、その逆もありますが、キングの考えではすべての中心は「ダーク・タワー」で、そこからはみ出したものが他の作品になっている。「ダーク・タワー」は、文字通り他のすべての作品につながっている中心的な作品なのです。

「ダーク・タワー」の舞台と、その構造。

実際に「ダーク・タワー」の舞台となるのは、中間世界と呼ばれる場所。ここは現実世界ではない異世界で、ちょっと見には西部劇みたいな生活が営まれていて、いかにもファンタジー小説の舞台って感じです。

ただし、完全に架空の世界ではなく、現実世界が混ざり込んでいるのが面白い。主人公のローランドは拳銃の使い手だし、生活様式や文明的にはおもに近世~近代っぽいんだけど、そこに突然ハイテク装置やロボットが出てきたり、廃墟となった現実世界の一部が登場したり、ハリー・ポッターにちなんだ武器が登場したりする。

では、中間世界とは荒廃が進んだ未来の世界のことなのか?というとそうではなく、あくまでも現実世界とは別の世界なんだけど、あらゆる時代、場所とつながっているキング・ユニバースの中心部。時代の違う複数の現実世界につながっているので、未来のテクノロジーが古びた姿で出て来ることもあるし、古い時代の人物が生きて登場することもある。つながっているので、現実世界から中間世界に迷い込んでしまう人物も何人も登場します。

極端に言えば、過去と未来が同時に存在することもある、そんな世界です。

で、この世界にそびえたつのがダーク・タワーと呼ばれる塔。そして世界には6本のビームが放たれていて、その交点にあるのがダーク・タワー。塔から見ると、党を中心に12本のビームが放射状に放たれているように見える。唐突にビームとか出てきますが、これはとても大切なもので、なんていうか中間世界にとっての精神的支柱?みたいな、大事なもの。

この塔とビームが、中間世界をささえるだけでなく、あらゆる次元の世界をつなぎ止める役割を果たしている大事な役割を果たしています。ビーム=梁なので、文字通り世界を支えているわけですね。ただ、塔とビームの働きには魔法的な抽象的な部分が多く、ビームも物理的なものではなく目に見えないものだし、建物の梁みたいに実態として構造を支えているわけではありません。

以上がダーク・タワーの世界の構造のざっくりとした説明です。

中間世界(Mid-World)についての補足

ここは細かいところなので飛ばしてもいいです。

中間世界という呼び方ですが、時々混乱を招くことがあるようです。

ダーク・タワーの世界は中間世界(Mid-World)と呼ばれていますが、細かく分けるとその世界はさらに5つの地域にわけられ、それぞれがIn-World、Out-World、Mid-World(中間世界)、BORDERLANDS、End-Worldと呼ばれています。主人公が最初に旅をするのはMid-Worldで、ダーク・タワーがあるのはEnd-World。

本の中では頻繁に「中間世界」という言葉が出てくるんだけど、果たしてどっちの意味で「中間世界」と言っているのかよくわからなくなることがあります。

さらに、塔があるのはビームの交わる中心で、つまり世界の中心近くにありそうなんですが、それが位置するのはEnd-Worldとされ、どちらかというと世界の外れっぽい感じなのでなおさらわかりにくい。

なんでそうなるのかというと、ひとつにはInとかOutとかいうのはあくまでもものの例えで、相対的な呼び方だからのようです。つまり自分たちがいる場所を中心にして、その外側に位置するものをOutとかEndとかBORDERLANDSとか呼ぶと。

かなり後付け感もある説明ですが、公式サイトではそう書かれています。

あと、この世界の時空が歪んじゃってるのも原因でしょうね。距離や時間の感覚が、伸び縮みしているように不定なので。

ま、小説中では地理的なものはかなり曖昧に描かれているので、全部ひっくるめて「中間世界」と考えて問題ないと思います。その世界の中で、まんなかから、塔のある場所に向かって、だんだん僻地に進んでいくんだな、という程度の認識で問題ありません。

「ダーク・タワー」の舞台と、その構造その2。

そういう中間世界なのですが、徐々になのか突然になのか、ビームの力が弱まり、塔に崩壊の危機が迫ってしまいました。

それが原因で、中間世界はあるときから変化し始め、世界のありさまが常に変転するようになります。さらに時間の流れも歪み、場所によって時間の流れが違っているです。

そのせいで、一晩過ごしたと思ったら10年も過ぎていたり、何十年歩き続けても目的地にたどり着かなかったり、文庫本にして3冊分もある昔話を一晩で語ったりします。

そして、現実世界との衝突も発生。なんというか時空の裂け目みたいなものが発生して、部分的に現実世界と中間世界が交差したりもします。その結果、現実世界の人物が中間世界で暮らしていたり、一時的に、中間世界に現実世界が重なったりします。

このへんのセッティングがなかなかおもしろい。時空が歪んでいるというのは物語の雰囲気を高めるのにすごく都合が良くて、主人公がたった一晩で長い長い長い昔話を語り終わっても、まあそういう世界だから、と納得できるし、なにかと便利です。しかもそれを「ずる」のために使っているわけではないところがキングの上手いところですね。しかし、このファンタジーで何より好きなのは、現実世界が舞台になるところです。

ダーク・タワーでは現実世界も舞台になる。

主要な舞台は中間世界で、ときどきそこに、現実世界から紛れ込んだ人物が登場する。それが基本なのですが、「ダーク・タワー」ではそれだけではなく、現実世界そのものも物語の舞台となります。

つまり、主人公たち中間世界の人物が逆に現実世界にやってきて、そこで冒険を繰り広げる。個人的にはこの虚実綯い交ぜになる感覚が、「ダーク・タワー」シリーズの魅力の一つだと思います。

そして、現実世界にも2種類ある。

中間世界はあらゆる次元に通じているので、パラレルワールドになっているいろんな現実につながっています。主人公たちは目的に応じて何度か現実世界に侵入しますが、そのうちの一つが「根本原理世界(Keystone World)」と呼ばれるもので、これこそ、われわれ読者の暮らしているこの現実世界になります。そして、この世界ではスティーブン・キングという小説家がメイン州で小説を書いていて、そのタイトルは「ダーク・タワー」。つまり、作中に作者が登場しちゃってるんですが、これがものすごく重要になってきます。このへんのメタっぷりも非常に魅力的な部分の一つです。

主人公とその目的と、旅の行方。ダーク・ファンタジーです。

主人公はローランド。かれはガンスリンガーと呼ばれる、現実世界でいう騎士みたいなものの最後の生き残りで、かれが砂漠の真っ只中で黒衣の男を追いかけて放浪しているところから物語は始まります。

ローランドの目先の目的は、黒衣の男を捕まえることなんですが、最終的には塔にたどり着き、崩壊しかけている中間世界をもとに戻すこと。

最初は一人で放浪しているローランドですが、途中でジェイクという少年と出会い、一緒に旅をすることになります。やがてものすごく不思議な縁で、現実世界に住んでいたエディ、スザンナという人物と出会い、彼らも旅の仲間に加わります。それからオイと呼ばれる、犬と猫の中間みたいな不思議な生き物も加わるのですが、途中でローランドは、これが運命の仲間だということに気づきます。これは中間世界の高貴な言葉でカ・テットと呼ばれ、絆というより運命で結び付けられた仲間のこと。

最初は心を閉ざしがちだったローランドですが、徐々に仲間と理解しあい、塔への旅を続ける。

しかし、具体的に塔にいったらどうするのか。どうやったら世界が元通りになるのか。そういうことは一切触れられない。とりあえず塔にむかう。ビームにそって進めばいつかは塔にたどり着くから、とにかく進む。

このへんも含め、ハリー・ポッターとかの楽しいファンタジーと根本的に異なり「ダーク・タワー」はダークファンタジーなのです。いろんな困難を乗り越えて、悪人を倒してめでたしめでたしとか、いろんな困難を乗り越えて、主人公が心身ともに成長してめでたしめでたしとか、そういうのとはちょっと違う。

ローランド一行はひたすら塔を目指して進む。その過程でもジェイクが誘拐されたり暴走AI列車と命をかけたなぞなぞ合戦をしたり、わけわからんことがたくさん起きるんだけど、この小説の雰囲気を決定づけているのはいったい、どこに向かっているの?という当惑混じりの読後感。課題が発生し、なんとかそれをクリアするものの、まったく目的に近づいている気がしない感じ。あるいは、塔には近づいているものの、塔にはいる鍵がない。おいおいローランド、いったいこのまま塔にいってどうするんだい?と聞いてみたくなるような感じ。

部分部分では困難を乗り越え、野越え山越え着実に歩みをつづける物語の全体に、なんともいえない影、というか運命がのしかかっているのを序盤から感じます。それがこの小説の隠し味かな、と思います。

万人にはおすすめしませんが、面白いです。

キング作品の集大成、といった言い方もありますが、別に他作品を知らなくても楽しめます。別の本の登場人物が主要キャラとして出てきてたり、名前だけ出てきたり、ファンならニヤリと出来る程度ですので。

ただ、そういう他作品との関連を抜きにしても、単純に非常に長い。さらに、その描写が重く、最近ライトノベルで流行りの異世界ものだと異世界で主人公がヒーローになるらしいですが、そういうのとは真逆で崩壊しかけた異世界で主人公が楽しいとはいえない旅路を強いられる話です。

そういうわけで、万人におススメできる小説だとは思いません。読めば達成感はあると思いますが、なかなか一歩が踏み出せない人が多いのでは。

ま、とりあえず映画を見て、面白い、あるいはつまんねーと思ったら原作にチャレンジしてほしいと思います。

その際、問題になるのが、第1巻が一番つまらないという残念な事実なのですが、第1巻は世界観の紹介、主人公の紹介、敵役の紹介といろいろあるわりに、最後とちゅうで終わってる感がすごいんです。これはあくまでも導入編と捉えて、第2部までセットで読んでいただきたいと思います。あるいは、第2部先に読んでもいいです。これはたしか訳者の風間賢二氏もそう言っていたと思います。

そして、3部くらいまでよんで楽しければそのまま読んで下さい。場合によっては4部は飛ばしてもいいです。4部だけで独立した物語、という感じがあるので。

どちらにしろ、一度読み始めたのなら是非最後まで読んでほしいですね。