「白墨人形」の感想。スティーブン・キング絶賛。

帯には「スティーブン・キング強力推薦」。強力推薦というのは、いったいどういう意味なんだろう。大プッシュとか絶対オススメとか、そういうのと同じニュアンスなんだろうか。でもこれはあとがきを読むとどうやらスティーブン・キングがツイッターでちょっと褒めた程度らしいので、それがどのようにして強力推薦に変換されたのか若干不可解な点が残る。そして、そもそも「スティーブン・キング絶賛」の信頼度が50%程度であることを考えるとこの文言から出来の良し悪しを判断することは不可能に近い。

その他には、「イギリス出版界で争奪戦となり世界36カ国で刊行決定!」とある。これは客観的な事実であり、争奪戦が発生しなかった小説よりは競争力がありそうなのは感じられるが、争奪戦を繰り広げられた理由は必ずしも内容の善し悪しではないだろうし、結局の所帯に書かれるのはどんな駄本のものでも褒め言葉に決まっているので、これもそれほど評価基準にはならない。

というわけで、予備知識なく、虚心坦懐に読んでみました。

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感想を一言でいえば、面白かったです。

少年時代と大人時代が交互に進行する。数人の少年たちが主人公。そのうちの一人は赤毛でボイーッシュな女の子。少年たちが死体を発見する。宗教。

キングっぽいのはこのあたり。この共通点をみると、まるで「IT」や「スタンド・バイ・ミー」にインスパイアされた小説のように思える。帯でも「IT」に言及してキングファンに訴求しようとしているようですが、読後感はキングの小説とはまったく異なります。上に上げた要素は確かに共通してるけど、むしろそれ以外についてはまったく別。かろうじて、過去に対するノスタルジックな視点が「スタンド・バイ・ミー」っぽいかな。

主人公は中年の教師。ある日、少年時代に起きたある事件を蒸し返すような出来事が起こり、主人公が過去を回想しながら徐々に少年時代の事件の真相に近づいていく、というお話です。これはミステリー小説ですね。視点は主人公の一人称で、探偵小説といってもいいかもしれない。

小説の出来としてはいいと思います。冒頭にショッキングなシーンと謎を持ってきて、そこからきっちり読者を引っ張っていってくれます。その後も謎のチョーク人形、ハローラン先生、いくつかの死体とテンポよく事件が起きてついつい読み続けてしまう点、確かに徹夜本といってもいいかもしれない。

物語は、最終的には一つのバラバラ殺人事件に行き当たり、主人公が事件の真相に気がつく、という展開になっているんだけど、最初からその事件が提示されているわけではなくそこに至るまでの過程で現在と少年時代の対比、失われた少年時代の輝きに対するノスタルジーが描かれていて、ミステリー要素だけでなくそのあたりもなかなか楽しめる。

主人公に未来はあるのか…

主人公がハードボイルドとは真逆の、痩せぎすでアル中気味で独身の冴えない学校の先生。かれのなかなかのヘタレっぷりもわりといい。登場人物のほとんどは彼の友人たちとその周辺で、イギリスの片田舎に住む地元民がほとんど。彼らの中流から下流あたりの生活ぶりに加えて親の介護、老朽化する実家、寂れていく地元などが他所の国の話だけどリアルに感じられる。

ドンデンがえしとか大掛かりなトリックなんかはなくて、推理小説というほどではないんだけど、ミステリーとしてきっちりできているので読んでいて満足感があります。そして、最後にいやーな後味を残してくれたのは作者のサービス精神でしょうか…。この辺も、先行きの見えないいまの社会にぴったりな気がします。全然違う話だけど片田舎のどん詰まりっぽい雰囲気に「シンプル・プラン」を思い出しました。意図してかどうかしらないけど、小説に今が反映されているように感じる。

不満点は、とくにないんだけどハローラン先生が可哀想。かれはもっと活躍するのかと思いました。あとタイトルにもなってるチョークマンがそんなに不気味じゃないかもしれない。それから、キングだったら個々のエピソードがもっと激しく膨張してそれぞれリンクするような気がするんだけど。そのかわり、読みやすいです。あとちょっとキャラが薄めな感じがしました。とくにハローラン先生が可哀想。

まとめ

「私の書くものが好きなら、この本を気に入るはずだ。」

キング自身がそう言っているので間違いないんでしょう。キングとは無関係に、普通におもしろい小説であることは間違いありません。それから、作者あとがきで著者が女性であると初めて知りました。