「因業探偵リターンズ」の感想。

新藤礼都が主人公の短編集、第2集。

短編集で、ネタは相変わらず多岐にわたるのですが、やっぱりこのシリーズの魅力は新藤礼都という主人公の性格にあると思います。ここにきてキャラクターがいよいよ確立されて、読んでいて安定感が感じられます。

自己中心的で上から目線で、他人の不幸を愉しむというかなり不愉快な性格な美人。まああまり近づきたくないタイプですが、雰囲気も近寄りがたく、本人も無駄な人付き合いをしようとはせず、普通にしていれば接する機会もなさそうなのが救いでしょうか。関わった人のほとんどがトラブルに巻き込まれる、またはトラブルのありそうなところにだけ現れるというところが因業探偵というタイトルの由来なんでしょう。

そして冷徹な観察眼と白黒はっきりした物言いで事件をあっさり解決する名探偵ぶりも相変わらずです。頭のキレは一級で、しかも美人という見方によっては才色兼備の女性でありながら、常にくだらないアルバイトをやっている(やらざるを得ない)という状況がちょっと間抜けで、そこが主人公の唯一の隙といえるでしょうか。

お話のネタとしては、どこか既視感のあるものも含まれていますが、概ね面白いと思いました。そしてこの短編集でも顕著に見られたのは著者の似非科学や詐欺に対する辛辣な態度。他の短編集でも、考古学で遺跡を捏造した事件や江本勝の「水からの伝言」なんかをネタにしていましたが、今回は知る権利を錦の御旗にして報道の暴力を振るうジャーナリズム、マルチ商法、代替療法(になるのかな)などがネタにされています。

それから前作よりも過激度、悲惨度がやや増している気がしますが、他の作品に比べると普通の範疇なので特に心配はいりません。

最後の2つは、ちょっと特殊な話。「鶯嬢」は、主人公にとって最大の危機といっていいかもしれない話で、交通事故によって新藤礼都の意識が市議会議員の立候補者の体内に入ってしまい、新藤礼都本体は意識不明になってしまうもの。その状況で立候補者とその支援者の不正を新藤礼都が知る、という話なんですが、単純に新藤礼都と立候補者の意識が入れ替わった、というわけではないところが面白い点だと思いました。

そして最後の「探偵補佐」は文庫書き下ろしで、ここだけちょっと特殊な世界観が現れます。このノリは好きなんですが、ここで新藤礼都は完結、ということなんでしょうか、それとも…。

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まとめ

前作「因業探偵」、および他の新藤礼都が登場する短編が好きな方なら読んで間違いないと思います。キャラクターの魅力が確立されてきて、ネタ的にも現実世界が舞台なのでこれはテレビドラマなんかの題材にも使いやすいような気がします。

それから、光文社文庫の小林泰三作品を読んでいて誤字が時々あります。誤字というか、不自然な箇所に疑問符があることが多い。意図的だとすると意味が通じないので誤植だと思う。

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