「我々は、みな孤独である」の感想。輪廻転生ミステリー?ハードボイルド?

貴志祐介の本というと緻密な構成の密室殺人であったり、人格破綻した犯罪者を描いた本であったり、最近はミステリーぽいのが多い。しかしISOLAは幽体離脱をネタにした物語だったし、ダークゾーンは登場人物が将棋の駒になってしまう異次元空間の話だったりと超常現象ネタとかSFぽい話もたくさんある。新世界よりは完全なSF大作だったし。あ、スズメバチという怪作もあったな。

で今回の「我々は、みな孤独である」はハードボイルド+超常現象という出だしで始まるお話。

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前世の殺人事件…超常現象ネタ?

主人公は売れない探偵事務所の所長。家賃の支払いにも汲々としている私立探偵だけど、腕は確かで数少ないクライアントからは信頼されている。そして主人公を支えるのはちょっと冷たいけど美人で有能な事務員という、よくある設定。

設定は典型的だけど主人公があつかう事件が異常。以前も仕事を引き受けた大会社の社長からの依頼は、前世で自分を殺した犯人を見つけて欲しいという前代未聞のものだった。

扱うのが前世というのはとっても気になるところ。このネタはオカルトの中でも個人的にはかなり興味深い。まことしやかな前世の記憶といった話はたくさんあるし、知るはずのない外国の街の様子を詳細に話す幼子の例なんかもよく聞く。もちろん、どれもただのデタラメだという話も。この作者が前世というトピックをどう扱うのか、わくわく期待しながら読みました。そしてその期待はいい意味で裏切られるのでした。

あくまでも冷静に前世の調査をすすめる。

前世、それも江戸時代くらいの時代での犯人探しという突飛な依頼だが、主人公は堅実に捜査を進める。

依頼主の社長がボケかかってたり、霊能力者とかに騙されていたりするのか。そもそも前世の話自体が本当なのかどうかかなり疑わしい。本当だったとして、そんな昔の事件の記録が果たしてあるのか、それをもとに犯人探しなんて可能なのか。おそらく不可能に近い。

とかいろんな可能性を考えつつ、主人公は報酬のために犯人探しを断行する。まず売れない時代小説作家に接近し、依頼主から聞いた前世の話をもとに架空の時代小説を執筆させる。出来上がった小説を実に基づいた小説として地方の郷土史家に紹介し、食いついた郷土史家に、小説のモデルになったような歴史上の出来事がなかったか調べさせる。

この辺はなかなか面白い。首尾よく似たようなできごとが見つかればいいし、見つからなくてもクライアントを納得させられれば問題ない。

といった感じで、物語の構図としては有能な主人公が活躍するふつうのハードボイルド小説っぽい感じで進んでいきます。腐れ縁のヤクザが絡んできてタイムリミットが設定されたり、事件が進むにつれて主人公に危険が迫ってきて居場所が失われていったり、そのへんも王道の展開。しかしこの小説では殺伐としてくる度合いが結構激しい。

ヤクザ、メキシコカルテル、暴力

特徴的なのはでてくるヤクザの丹野、凶暴すぎてやばい人物造形が面白い。なお主人公もそのヤクザと小学校からの知り合いで、本人も結構な腕っぷしかつ冷静な判断力を備えてて、同著者の他の主人公を思わせるとこがあります。探偵事務所の従業員も、防犯探偵シリーズの青砥っぽい。

それはともかく、ヤクザだけでなくメキシコカルテルも絡んできてお話はいっきに血生臭くなる。いや、もともとの凶暴ヤクザの狂いっぷりがカルテルとのやりとりであらわになってくるという感じか。

ギャグもありつつ、どんどん血生臭く、殺伐としてくる世界。この辺の妙に暴力的な部分も、この小説を特徴づけていると思います。

そして肝心の前世、輪廻。この大ネタをどう処理するのか。

世界の人口は過去から現在までどんどん増えている。輪廻転生説だとその事実の説明がつかないよね、っていう誰もが抱く疑問にも触れられていて、前世の記憶というオカルト説を一刀両断する方向なのか?と思いきや、調査をすすめるにつれて主人公やその周辺人物も、突然前世のものと思しき記憶を思い出す。しかも、ほかの人の記憶とかぶっていることもある。一体これはどういうことなのか。どう決着をつけるつもりなのか。

その結末ですが、結構驚きました。あ、そうきたか…という感じで。SFなのか?これはぜひ実際に読んで確かめていただきたいと思います。

ジョークやギャグもなかなかいい線いっていて(偉そうですみません)面白いのですが、東日本大震災と強く結びついたお話でもあるので全体としてはふざけたり笑えるタイプのものではありません。主人公が語る二人の探偵の話とか、結末が語られないままの挿話といったものも、全体の構成と呼応してるのかなーとか思ったりしています。

まとめ

というわけで、かなりの変化球だと思いますが個人的には楽しめました。

オカルト方面からの前世ネタを期待している向きには肩透かしを食らわされたように感じる方もいるかもしれません。純粋な探偵物語を想定している方にも納得されないかもしれません。

じゃあ誰が読めばいいんだ?ということですが、東日本大震災や血なまぐさい場面と大ネタとの関連、なかなか新鮮でした。この、いったいどう進んでいくの?という感覚はみなさん楽しめるのではないでしょうか。

というわけで、久しぶりの貴志祐介の長編でした。悪の教典の続編もお待ちしております。

あ、読みやすさはかなりのものです。どんどん読みやすくなっている。もうちょっと引っかかりのある文章でもいいような気もする…。

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