「東京難民」の感想。ホストの話。

「東京難民」。

なんだろう、ごくふつうの若者がちょっとしたキッカケであたりまえの生活を失い、あっというまに人生の坂道を転げ落ちていく話かと思ったら、そしてそういう可能性は今やだれにでも起こりうるんですよ、という話かと思ったら、違った。

そういう面もあるんだけど、途中からやさしいホストたちの青春物語みたいになった。

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学生→無職

この映画の主人公の大学生についていえば、まさに当たり前の生活が突然失われる目に合うんだけど、そのきっかけは親が仕送りも学費も支払いを止めてしまったから。父親が母親との離別後フィリピンパブだったかの店の娘に入れ込んだからで、災難といえば災難だ。学費も生活費も親に依存している上京してる学生の生活なんて、何かが間違えば簡単に崩れ去ってしまう。

ただこの主人公に同情しきれないのは主人公がいかにもなバカ学生で態度が悪いから。学生課の職員に暴言は吐くし、家賃滞納については事前に封書で連絡が来ているのに開けて見もしない。もう少しなんとかなったかもしれないのに。それに仕送りがなくなり日々の生活費に事欠くようになってもタバコは手放さない。バイトで手に入れた金もパチンコで散財。

このどうしようもない学生を中村蒼が好演。この後、生活費を求めてティッシュ配りのバイト、治験、ホスト、タコ部屋、そしてホームレスと転々とする主人公ですが、その過程で態度の悪さが抜けて人としてまともになっている。

最初は学生という身分の危うさと、切羽詰まった人々の貧困する様子を描いていくのかな、と思っていたら、途中でホスト編が始まった。

ホスト編

ルイというギャルに騙されてホストクラブの飲み代を請求され、働いて返します、とホストになった主人公。学生のときは結構チャラい感じだったのにホストになると客に対しても敬語でですます口調なのが笑える。

ホストとしては全然ダメな主人公。そこに現れたのが、やっぱりルイにつれてこられた客の茜さん。ホストクラブ初体験の茜さんはウブで押しの弱い主人公を好ましく思い、その後は主人公を指名するようになる。やがてクラブの常連になる茜さん。クラブの先輩はとっとと大金を引っ張れと諭すが、主人公は茜さんは自分のペースで楽しむんです、とかぬるい発言。その後も茜さんの指名のおかげでホストとして営業していた主人公だったが、ある日、先輩のジュンヤからどうしても100万円貸してほしいと頼まれ…。

このホスト編が長い。というかあとはほぼホスト編みたいになる。ここで映画のトーンも変わってしまい、世の中からこぼれ落ち、行き場をなくした主人公の苦境を描くのではなく、ホスト同士の友情青春物語みたいになってしまう。茜さん役の大塚千弘は非常にいい。最初はすっぴんみたいだったのが、途中からケバい化粧に変わっていく。

ジュンヤの100万円は逃げたルイがツケにしていた飲み代で、これを払わないと大変な事になってしまう。で人のいい主人公は茜さんに頼んで100万円をかり、ジュンヤに渡す。

その後またトラブルが発生するんだけど、ルイが見つかり、クラブオーナーのアツシはルイをソープで働かせて借金返済させることにする。でも実はルイとジュンヤは恋仲で、ジュンヤはルイを実家に逃し、自分も逃亡する。主人公も一緒に逃げる。

ますます青臭い青春物語みたいになってきます。ウシジマくんみたいにダークではなく、ナニワ金融道みたいにゼニゼニゼニと割り切っていない。じゃあ何かと言うと、若者の青春物語としか言いようがない。

その後、紆余曲折をヘて主人公はついにホームレスになってしまうのですが、

ホームレス/震災編

ホームレスはみんなやさしく、記憶をなくした(ということにしている)主人公を受け入れ、食事も寝床も与えてくれる。なかでも鈴本さんはよくしてくれ、主人公も空き缶拾いや古雑誌の販売など、仕事を手伝う。

古雑誌の広告で、主人公は茜さんが風俗で働いていることを知り、会いに行く。そして100万円は必ず働いて返すと約束するが、もういい、と許してもらう。

茜さんがなぜ風俗で働いているのかは謎だ。主人公に貸した100万円だけでそんなことになるとは思えない。それとも、よほどやばいところから借りたんだろうか。その後もクラブにハマってツケ払いが増え、返せなくなって風俗に売られたのだろうか。

ラスト&感想

仕送りも住む場所も失い弱い立場になった主人公が、その後行く先々で貧困の実態を目の当たりにする、という話を予想していたんですが、その過程を通じて人間的に成長する、または悪いところを捨てて良いところが見えてくる、というのがメインだった。

主人公の流転ぶりは面白いんだけど、でもラストがよくわからない。ラスト、主人公は父親を探しに行くとかいって鈴本さんの元を去る。

鈴本さんの震災でなくした息子の話を聞いて急に感動して思いついた行動のように思えるのは、主人公自身の父親との関係が全く描かれていないから。キャバクラにうつつを抜かして息子の学費を滞納した父親というイメージしかないので、それを探しに行くっていうのもなんかよくわからない。これも、流されやすい主人公のキャラクター所以なのか。

映画冒頭の場面の意味が、冒頭と劇中でまったく変わって見えるのはうまかった。クラブの支配人にボコボコにされ、血まみれで伸びている主人公。こいつ川に捨てますか、という部下にたいして答える「こいつはもう終わってる」という支配人のセリフ。その意味が全く変わってしまう。

こういう演出も上手いし、個々の演出、演技、それぞれのパーツとしては面白いと思います。ホームレス/震災編の井上順も上手いし、ギャル役の山本美月も悪くない。しかし、全体を通してみると結局なんの話だったのかよくわからない。お人好しのホストの話だったような気がする。

あとクラブの支配人は金子ノブアキが演じているんだけど、眼鏡とヒゲですごくやくみつるみたいだった。物語の本質とは関係のない部分だけど、彼が主人公ボコる前後の心境なんかもけっこういい演出で、なかなかおいしい役だったのではないでしょうか。

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