映画「ゲット・アウト」の感想。差別問題と思わせておいて…よくできたスリラー映画。

だいぶ遅れて日本公開したので見ました。面白かった。結構びくっとさせられるサスペンス映画で、コンパクトに纏まっていてよくできている。

白人女性と付き合ってる黒人男性が彼女の実家に行って、閉鎖的な白人社会で恐ろしい目に遭う話…と思っていたし、宣伝とか、ポスターとか、だれもがそういう映画だと思うだろう。実際そういう話なんだけど、うまい引掛けがあって、それが効いてる。

いろいろな伏線もあって、これは二回目に見てもああ、これってそういうことか、と楽しめる映画になっていると思います。作りが丁寧で破綻がない。

ネタバレしない程度のあらすじを御覧ください。

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あらすじ。

黒人男性クリスと白人女性ローズのカップル。付き合って5ヶ月目、両親への挨拶も兼ねて彼女の実家で週末をすごすことにする。両親に合うのもそこに行くのもはじめて。出発の前、彼氏が尋ねる。「付き合ってるのが黒人だって親に話した?」

彼女の実家に到着。両親は、クリスが黒人であることに対しては特別な反応を示さず、ごく普通に、むしろフレンドリーに彼を迎え入れ、二人を祝福してくれる。神経外科医の父親はベルリン五輪のエピソード、世界各地を旅した経験、異文化を学ぶ大切さ、オバマ支持などからむしろ黒人にたいして理解があることを示す。精神科医の母親も穏やかで優しそうな人。

しかし、家の庭園を管理している使用人は黒人だった。家政婦も黒人だった。

クリスはなにかがおかしいように感じる。両親はいい人のようだし、ローズの弟もちょっと乱暴なところはあるけれど差別的ではない。それともこの違和感は自分が意識しすぎているせいなんだろうか。しかし、使用人の二人も態度がおかしいことにクリスは気づく。二人とも会話のトーンがまともじゃない。やはり、何かがおかしいのでは。

週末は、ローズの祖父を記念したパーティがある。ご近所さんがたくさん参加するパーティで、クリスとローズももちろん出席する。しかしそこでも、ご近所さんとの会話の端々にただならぬ違和感を覚える。

そこにいた一人の黒人青年。かれもまた、喋り方が奇妙で何かおかしなところがあった。年配の白人女性といるのにも違和感があるし、どうも浮世離れしているように思える。そしてクリスが持っていた携帯で彼を撮影すると、突然彼は正気をなくし「出て行け!」と叫んでクリスに掴みかかってきた…

ところどころ端折って途中までのあらすじを書きました。ここまででもわかるかもしれませんが、この映画は主人公が差別を受ける映画ではありません。

かなりビクッとさせられるホラー/サスペンス映画。

あらすじは上記の通りなんですが、そこここにショック演出が入ってきます。急にでかい音がなる、というシロモノなんですが、かなり不意をついたタイミングでくるのでおもわずビクッとしてしまう。

それから、クリスの違和感をとおして全体的に落ち着かない、不安な雰囲気を漂わせるのが上手い。

ネタバレ有りの感想をいかに書きます。

以下ネタバレ有り。差別映画…からどんどん変な方向に。

黒人が差別される映画か?と思わせて、とんでもない方向に転がっていく映画。似ている映画としては、たとえば「武器人間」みたいな。

なんか変だぞ、とわかる最初のポイントは、パーティー出席者の黒人青年。映画の冒頭、夜の郊外で、一人の黒人の若者が何者かに襲われ、車のトランクに詰め込まれ誘拐されるシーンがありますが、この誘拐された黒人が実はパーティーに出席してる奇妙な喋り方の若者なんです。服装も髭も違うので一見すると気づかないかもしれませんが、なんで誘拐された若者がここに?って思うと、この家族、パーティになにか裏があるとわかります。

ちなみにこの俳優はネットフリックス版「デスノート」でL役を演じてた人ですね。

なんか奇妙だな、と思うのは母親の催眠術シーン。この辺からトーンがホラーっぽさを増して、なにか社会派映画とは別の方向に進むのかも…と思わせます。

そして、思っていたよりずっと変な方向に進んでいると気づくのは、パーティーでビンゴが始まるところ。このビンゴ、最初からみんなが1列揃ったカードを持っていて変なのですが、実はビンゴじゃなくてオークション。ここでわかります。実はクリスは週末に彼女の実家に呼ばれたのではなく、オークションのために連れてこられた「売り物」だったのです。

しかもこのオークションの目的が狂ってて、脳を移植して、体を乗っ取るための器を競り落とすオークションなんです。

裏返しの黒人差別について。

クリスが感じる違和感は、だれもかれもが「黒人」について触れること。パーティーの出席者はゴルフのタイガー・ウッズを褒め、クリスの肉体を褒め、あまつさえあっちのほうもも強いんでしょ?とローズに聞いたりもします。

この辺、これはクリスが黒人であることを意識したパーティー客が意図的に黒人を持ち上げていて、そのせいで妙な雰囲気になっているのかな、と観客に思わせます。

しかし、クリスはオークションにかけられ、パーティー客に買われる側。パーティーに出ていた黒人青年も、使用人の二人も、みな同じ目にあっている。クリスのなぜ黒人ばかりが?という問に対するローズの父親の答えは「みんな黒人に憧れているから。」つまり、パーティーでの客の発言はお世辞ではなく、本気の賛辞だったのでした。

このあたりも、白人優位、黒人を下に見る差別意識を予想していた観客を裏切る上手い脚本だと思いますが、結局は黒人の肉体を乗っ取り、それになんの問題も感じていないという黒人軽視で、やっぱり差別なわけです。いい道具としてしかみていない。

昔ながらの古臭い黒人差別ネタかと思わせて、まったく別種のホラーを展開し、しかし差別問題もきっちり織り込んでくる。よくできていると思います。

催眠術をかけて、チリンチリンとスプーンを鳴らすと黒人が動けなくなり、黙りこくってしまう、というのも非常になにか連想させるものがあります。

細かいところもしっかり作られている。

ご都合主義の部分もあるんだけど、それ以上に細かいところがきっちりつくられていて、それが快感。

冒頭、車で鹿を轢いたローズが警官を呼び事故の処理をした際、助手席にいたクリスまで身分証を求められる場面。ローズは黒人差別だと憤って警官に猛抗議する。いい彼女だと思わせておいて、実はクリスの身分証をみられ記録を取られると困るから焦って抗議している。

庭の管理をしている黒人。じつはおじいちゃんに乗っ取られている。おじいちゃんは元短距離選手で、ベルリン五輪で黒人選手に負けた。そのせいで毎日トレーニングを欠かさない。夜中に走っていたのもそのせい。

家政婦はおばあさんが乗っ取っている。夜中に窓に映った自分をみたのは、若い自分に見惚れていたからだろうし、しょっちゅう髪型を直しているのは脳移植手術の痕が見えない用、カツラを直しているから。

お茶のシーンで家政婦が突然かたまってお茶をこぼしたのは、お母さんが紅茶をかき混ぜたときのスプーンの音が図らずも催眠暗示になっていたから。

パーティーの出席者で唯一クリスの知り合いだったジム・ハドソン。かれだけがクリスとまともな会話をし、仕事の面でもクリスに期待していると話し、この人だけはまともなのでは、と思わせる。そして、オークションではこの人が落札。ひょっとしてクリスを助けてくれるのか?と観客の期待を煽る。この辺は常套手段なんだけど、こういう当たり前の演出も忘れずにやってくれる。

その他、冒頭で黒人を襲ったのは弟だし、きちんと辻褄があうようにできている。とても構成力のしっかりした脚本だと思います。

登場人物もいい。

主演の二人はとくにいいですね。主人公はダニエル・カルーヤ。キックアス2とかにでてたらしいが知らない。「ゲット・アウト」でブレイクしたそうです。今度アメコミ映画化の「ブラック・パンサー」に出る。そういえば予告やってた。

ローズ役はアリソン・ウィリアムズ。ときどき、すごくジェニファー・コネリーに似ている。だいたいいいんだけど、最後に次の獲物を物色しているシーンと、その後の銃を構えている姿がかっこいい。

あとジョブズみたいなお父さん役や、パーティーの出席者もみんなだいたいそれっぽい。典型的な白人、みたいな感じで。

音楽もいい。

あーあと音楽もいいですね。なんだろうこの不思議な、民族音楽的な雰囲気もある音楽。これも民族音楽=アフリカ系アメリカ人のルーツをかすかに漂わせる意図的な狙いなんだろうけど、不思議にぞくぞくしてくるいい音楽です。あとビビらせる場面でバシバシ音が決まっていて、結構怖い。

まとめ。

正直なところ、黒人差別という問題は日本で暮らしている私には当事者としてはわからないし、この映画のいろいろなところに埋め込まれている含意にまでは気づけません。耳栓につかった綿=コットン=黒人奴隷への連想、とか。しかし、そういうのを抜きにしても、面白い。

恐ろしい集団による誘拐事件を黒人差別もの?と思わせるずらし方も上手いし、ておいて普通に怖い映画として楽しめる。後半はちょっと勢いで乗り切っている感じもするけど、まあそれだけ勢いもあるし、いいんじゃない?と思いました。