発売されました。以下で冒頭試し読みできます。
すでにご存じの通り、キングの長編叙事詩ダーク・タワーシリーズが先日角川書店から改めて出版されることとなりました。
その際、ひょっとして後から書かれた中編”The Wind Through the Keyhole”も翻訳されるのかなーなどと思っていましたが、どうやら最初から翻訳される予定だったみたいです。最初から刊行予定にあったみたいですね。6/25に発売だそうです。
“The wind through the keyhole”という中編で、ペーパーバックで300ページちょい。それほど長くない中編といった感じ。「鍵穴を吹き抜ける風」という邦題になるようです。
この「鍵穴を吹き抜ける風」ですが、全体の時系列の中ではダークタワー4.5章とされており、4章と5章との間に挟まれる物語になります。
どんな話かというと、実際の(本編の)旅程のなかでは大したことは起こらず、starkblastというとんでもない嵐を避けて一行が建物に避難する間、主人公ローランドが昔の話を語って聞かせる、という体裁になっています。ようするに4章の「魔道師と水晶球」と同じ構造です。
第4章が始まったとき、おいおい昔話みたいな挿話はメインのストーリーから意識が削がれて嫌なんだよやめてくれよ、とか思っていたくせに、始まった途端物語に引き込まれてむしろ本編よりもファンタジーらしさもあり初々しい主人公が魅力的でもありおもしろい、などと思った記憶があります。「鍵穴を通り抜ける風」も同じようにやはり主人公ローランドの若かりし頃の話で、スキンマン(シェイプシフター)という姿の定まらない謎の化け物に住民が殺害されているのを、ローランドが調査に出向くという話になります。
その中で、少年時代のローランドがビルという少年にであい、ローランドがビルに語って聞かせるお話が「鍵穴を吹き抜ける風」です。つまり 「鍵穴を吹き抜ける風」というのはいわばおとぎ話のタイトルで、これはローランド自身がまだ幼い頃に母親から読み聞かされていた話だということです。このおとぎ話が全体の8割以上を占めます。
おとぎ話といってもけっこう切ない場面もあったりして、やっぱりダーク・タワー=ダーク・ファンタジーという印象に変わりはありません。
印象的なのは 「鍵穴を吹き抜ける風」の主人公のティムの家庭が年貢による貧困に苦しむという設定。昔話で年貢の取り立てに苦しむという設定は目新しいものではありませんが、アメリカでのかつてない貧富の格差の広がりや、日本でも経済的な苦境が報道されている昨今、おとぎ話の典型を超えた具体性を持っているように感じられます。このへん、「ミスター・メルセデス」やその続編の”Finders Keepers”に通じる感覚があるように思います。とくに”Finders Keepers”では物語の背景にリーマンショック後の貧困があったと思いますが、それによくにた感じを受けました。
あるいは、そうした昔話でよくある設定にすぎなかった貧困家庭に、現実生活の多くが近づいたということなのかも。
それはともかく「鍵穴を吹き抜ける風」はそんなに長くもなく、面白い中編なので是非読んでいただきたいと思います。ノース・セントラル・ポジトロニクスとか、黒衣の男とか、本編を読んだ人にとっても興味深いキーワードがたくさんでてくるので、とうぜん本編読んでいる人は必読でしょう。ローランドという人物により深みが出てくるような気がします。
そして、あらゆる言語に共通する、もっとも美しい言葉とは。いったいなんという言葉なのか、是非みなさんよんで確かめてみてください。