「マインドハンター」シーズン1感想。FBI行動科学課はサイコパスへのインタビューから生まれた。

1991年の「羊たちの沈黙」の大ヒットは、サイコキラーものの流行をもたらしましたが、それによってハンニバル博士のような異常者の存在が知れ渡っただけでなく、それを追う側にも注目が集まりました。プロファイリングとか、サイコパスとかの用語も一般的になり、いろんな本も出版されました。そのなかでも「FBI心理分析官」は、著者のFBI職員ロバート・K・レスラーがトマス・ハリスに協力してたなんていう話題もあってベストセラーになってたと思います。

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FBI行動科学課設立前後のお話。

で、ネットフリックスの「マインドハンター」。これも「心理分析官」のように、FBIで連続殺人犯を相手にしていた著者が職員時代の回想をまとめた自伝をドラマ化したもの。原作はジョン・E・ダグラス、「FBI心理分析官」のロバート・K・レスラーとも一時期一緒に仕事をしていた人で、当然FBIの行動科学課の日々が描かれる。

ただ、このドラマはもっと時代を遡って、行動科学課という部署が徐々に出来上がっていくところから始まっている。なお、主人公ホールデンのモデルは原作者のダグラスで、相棒のビルはロバート・K・レスラーがモデルになっています。ダグラスはハンニバルシリーズのクロフォードとか、「クリミナル・マインド」の

いまでこそシリアルキラーとかプロファイルとか当たり前の言葉になっていますが、当時はまだ存在しない。猟奇的な事件や連続殺人が起きても、それ以外の事件の延長としてしか捉えられない時代です。そこから、どのようにして異常な犯人をプロファイルし、犯人像を明確にする技が編み出されたのか。

主人公は若いFBI職員のホールデン。FBIで犯人との交渉を担当していたかれは、ある事件で人質をとって立てこもった男の説得に失敗、男は銃で自殺する。特殊な犯罪を解決するためには、異常な行動をとる犯人について、動機や考え方をより深く知る必要がある、と考えた彼は、同僚のビルと二人の地方警察まわりの仕事の合間に、全国各地の刑務所に収監されている連続殺人犯にインタビューすることを思いつく。最初は無意味と思っていた同僚もやがてインタビューの潜在的な価値に気づき、二人は協力して犯罪心理の分析に取り組み始める。

という始まりなんですが、このドラマ、面白いです。ドラマの構成がなかなかいい。

直接的にグロい場面や派手なシーンはありません。(写真はある)

異常殺人犯とFBI捜査官、という言葉で連想されるのはどうしても「羊たちの沈黙」みたいなやつですが、このドラマでは人が襲われたり殺されたり、銃で撃ったり撃たれたりという場面はありません。事件は出てきますが、すべて事後。

最初は二人組の主人公、ホールデン・フォードとビル・テンチによる各地の異常殺人犯へのインタビューから始まる。そこに、助けを求めている地元の警官の協力依頼があって、主人公たちはインタビューから得た知見を元に警察に助言を与える。この流れが大きなまとまりとして3つくらいある。

それと同時にドラマを推進させるのがそれぞれの人間関係。まず主人公の二人、なかなかいいコンビなんだけど馬の合う相棒という間柄じゃない。時々すれ違い、意見が対立することもままある。仕事以外にも問題があり、ホールデンは付き合ってる彼女との関係を巡って思い悩み、ビルは自閉症気味の息子との接し方、さらには妻との接し方もわからなくなっている。ウェンディは同性愛者で、FBIに移るために教授としてのキャリアも、彼女も捨ててきた。

その他、二人の活動がFBIの中で行動科学課として成り立っていくドラマがある。まず、ビルが知り合いの精神科医のウェンディ博士に協力を求め、やがてウェンディ博士はフルタイムのFBI職員として組織に参加するようになる。最初は白い眼で見られていた二人も、実際の事件解決などの手柄もあり徐々に局内での地位も確立されていく。地下にあって、窓際みたいな位置づけだったオフィスにもだんだん機材が入り、人も増えていく。

ところが、とある発言が問題視され、行動科学課に査察が入ることになったりして、まあ第1シーズンはなかなか波乱万丈な幕開け、といった感じでした。時代が1977年なのでもろに最近流行りの時代設定なんですが、撮影手法なんかはわざと古びさせたりといったことはないみたい。出てくる車は当然みんな古い。

デヴィッド・フィンチャーが製作総指揮で、かれの「ゾディアック」に似てるといえば似てるかも。エピソードの冒頭にときどき挿入される某連続殺人鬼の姿なんかも、不気味な雰囲気があっていいし。すごくおもしろいと思うのですが、派手なドンパチなんかはないドラマなのでそういうのを期待していると肩透かしを食うかも。でもそれ以上に犯人とのインタビューがいい。なかなか緊迫感もあり、人の異常性が垣間見えるところがあったりして面白い。

実在のサイコパスとのインタビュー場面は必見。

犯人は、演じるのはもちろん役者だけど、実際の人物。ドラマのその他の部分ではゆるく事実に基づく、って感じですが、サイコパスたちはすべて実在の人物です。まだ生きてる人もたくさんいるけど、こういう実在の人物が出て来るフィクションって許可とかいらないんですかね。「羊たちの沈黙」なんかにハマってそういうの調べた人なら必ず目にしたことのある人が出てくると思います。これらの演技も必見。

とくに第2話で登場するエドモンド・ケンパー。2mを超える巨躯で、15で祖父母を殺し、精神病院に1年はいったあとさらに5人を殺害、次に自分の母親も殺害。母親の頭部を切断し、声帯を切り取ってディスポーザーに入れた。こうかくといかにも凶暴な犯罪者、って感じだけど、インタビューを受けているエド・ケンパーは柔らかい物腰の落ち着いた話し方の人物。IQも高いらしい。かれがインタビューの中で、母親に対する異常な心理を吐露する場面なんかは見ごたえがある。エド・ケンパー役の俳優、非常に不気味な存在感があっていい感じです。

その他のインタビューを受ける受刑者も、このネタ自体に私自身興味があるのは抜きにしても、軒並みいい演技でドラマの骨子としてうまくできてるとおもう。靴に異常な執着があるやつが、話を引き出すネタに主人公からハイヒールをプレゼントされて、その場でオナニーをし始めたりとか…凶暴そのものといった犯人がインタビュー中に保護していた小鳥をいきなり殺しちゃったりとか…。

そして、インタビューで得た洞察をいかに現場に適用するか、というのを主人公は度々考えるんだけど、シーズン終盤、バトンガールが殺害された事件の捜査がその総括みたいな感じで見応えがありますね。容疑者が連れてこられて取り調べを受けるんだけど、本当にこのひとが犯人なのかどうなのか、ぱっと見てもわからない。しかし主人公はかれが犯人であると確信し、自白を引き出すためのネタを揃えて取り調べを開始する。この場面も見応えがあります。

しかし、犯人を捕まえておわり、というタイプのドラマではないので。シーズンラストは行動科学課への査察、主人公の彼女との破局、そして異常殺人犯を舐めていた主人公が利用していたつもりでしっぺ返しを食らって終了。シーズン2は決定しているので、続きが楽しみ。

シーズン2以降はどうなるのか。BTKキラーは?

続きですが、当然今後はBTKキラーが主題になってくるんでしょうね。いくつかのエピソード冒頭で登場する髭のおっさんが、長年にわたってアメリカで恐怖を撒き散らしたBTKキラーことデニス・レイダーですね。2005年にかれが逮捕されたときにはびっくりしました。

しかし、ドラマはいま1970年代。デニスの逮捕まで描くとしたら、ドラマ内で30年経過することになります。フィンチャーによればシーズン2では1979年~1981年におきたアトランタ児童殺害事件がとりあげられるそうです。これ、児童だけじゃなくて28人も犠牲者が出ているすごい事件ですね。

いちおう、第5シーズンまでの計画があるということなので、BTKキラーの逮捕まで無事お話が続くよう期待して待っていたいと思います。シーズン2は2018年10月以降の放送じゃないか、という噂。

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