リメイク版「サスペリア」の感想。オリジナルとは別物。独自要素をどう捉えるかで評価がかなり分かれそう。

熱狂的なファンをもつカルト映画「サスペリア」のリメイク。かなり難しいチャレンジであるとは予想できるけど、果たして出来栄えは。監督は最近活躍中のルカ・グァダニーノ。新しい「蝿の王」のリメイクも彼が監督するということですが。

見る前は、音楽がトム・ヨークとかで結構期待していたんですが、まあちょっと期待はずれな感じでした。

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オリジナルはホラー映画の古典。計算されたデタラメさ。

オリジナルはかなりエキセントリックで、すでに古典となっている映画。それに対してこのリメイクも、オーソドックスな作りではないんだけど、いかんせんオリジナルのような勢い、パワーが足りない。ではオリジナルとは切り離して一つの作品としてみたらどうかというと、それもちょっと弱いかな。

オリジナルはどぎつい配色や突拍子もないショックシーンやゴブリンによる奇怪な音楽や意味不明に近いストーリーなどが話題でいまだに語り継がれる伝説的映画。カルト映画の地位を手に入れてます。

この若干破綻気味の作風、円熟期のダリオ・アルジェントには共通しているものですが、これは決して本人が天然だからとかヘタウマだからとかではないと思います。もちろん、すべて計算されたものであり、理解しにくいストーリーも、唐突なショックシーンも、意図して構築されています。最初に見た時は唖然としましたが、何度も見ているとそれぞれの場面や音楽がたくみに配置されているのがわかってきます。

下手くそな監督だったら、ただつまらない映画になるだけだし、ちょっともっさりしがちで演技的にもシナリオ的にも理解し難いルチオ・フルチの「ビヨンド」や「地獄の門」と比べても、いかに優れているかよくわかります。

「サスペリアpart2」、「フェノミナ」の完全版が出ていますが、それを見るとオリジナル版がきちんと無駄なシーンをカットしていることがわかるし(つまり完全版よりオリジナル公開版のほうがいい)、「インフェルノ」でも、わかりやすいストーリーをあえて犠牲にして派手なシーンをつなげることで映画を構成していくアバンギャルドな手法をあえて採用しているように見えます。そして、それできちんと最後まで見せてくれるのが偉い。

元を超えられるのか。オリジナル要素満載で挑戦していますが…

こういう作風のオリジナルを乗り越えるのに、さらなるパッションとショックで臨むのは相当難しいと思います。なので「サスペリア」のリメイクが路線を変更して、魔女が潜むバレエ学校に入学した少女が奇怪な出来事に巻き込まれるという物語に立ち返り、そこから新しい物語を発展させることでオリジナルの差別化を図ったのはよく理解できます。

でも、結果的にはオリジナルの、どういう進行をしてるのかよくわからないところは継承して、でもインパクトは無くなっていて、ちょっとおもしろくなかった。やっぱりオリジナルのインパクトがでかすぎるせいかな。それとも、単純にリメイクのストーリーもよくわからないせいだろうか。

リメイク版は独自要素として舞台に設定した1977年ドイツの時代背景とか、さらに魔女の正体といったものを入れてきてますが、これが果たして良かったのか。

冒頭に登場する精神科医らしい老医師が、バレエ学校に不審な点を感じ、独自に調査するわけです。調査と言っても警察に通報したり、バレエ学校に失踪した生徒を訪ねてみたりする程度ですが。

でこの医師は第二次大戦中に妻とはぐれ、今でも愛する妻の行方はわかっていない。このへんで戦後ドイツ特有の時代的病理みたいなのも映画に入り込んできます。

それからドイツ赤軍のデモについても多々言及され、旅客機ハイジャック事件なんかも劇中のラジオでほぼひっきりなしに放送されてます。

で、こういう箇所って、バレエ学校と魔女の物語になんの関係もない。ドイツ赤軍が魔女と結託してたとかいうわけでもないし、精神科医の親族がバレエ学校にいるわけでもない。つまり本筋と交錯しないダブルプロットで、ストーリーの推進に寄与してない。

初代サスペリア原理主義的には、この辺、全部いらないところ。

オリジナルの追加要素=リメイク版の要?そうなると、初代の要素はいったい…

しかしこのように作られているということは、むしろリメイク版においてはこのパートにこそ魔女の館での殺人騒動よりも重きが置かれている、ということでもあります。

そうでなければ、わざわざ2時間32分もかけてこんなストーリーにせず、老医師のパートを全カットして90分に収めたはず。

でも確かに、長すぎるし、長さの割にはストーリーも平坦で盛り上がらないし、遠くに来てしまった感じもなく単調に時が流れていく。最初、バレエの演目みたいに6幕と1エピローグからなる物語、というタイトルが出た時はなかなかかっこいいし面白そうだったんだけど。6幕に分ける必然性もよくわからんし、単純に長過ぎる。

リメイクでこの大きな変更をしたことがはたして良かったのかどうか、賛否が分かれるところだと思います。

老医師の物語はそれはそれで感動的だし、いいんだけど、それがラストシーンて、じゃあ魔女とバレエ学校はなんだったの?ってなる。それならサスペリアである必要ないでしょ?まさかサスペリアのリメイクで、ジャンル映画に振り切らず一般受けするドラマ要素も入れてみました、なんてことはありえないし。

オリジナルとの差別化を図るために余計な要素を入れて、無駄に時間を浪費した上肝心なものを見失ってしまったという見方もできるでしょう。しかし、オリジナルとリメイクは別物なので、オリジナルと違うからつまらない、という間違った見方をしないように気をつけなければなりません。原作付き映画も同じことがいえますが、原作との間違い探しをしても意味がないので、原作とは独立した映画として評価するべきです。

その他の要素について。ホラー映画的グロ場面は結構よかったけど、量は少なめ。バレエ学校なので、バレエがでてきます。

気を取り直して、肝心の映画の出来はどうかというと、まあ丁寧に作られてはいますがみていてちょっと退屈なのは否めない。注意深くみることを要求する作りになっているので適当に見ているとわからなくなって、わからないと眠くなります。

冒頭、逃げ出してきた生徒と老医師の場面での撮影とか、その後の細かくインサートされる殺しの映像とか、いろいろやってはいるけどそんなにインパクトがないのは、写っているものがそもそもおとなしいからか。わかりやすいどぎついショックシーンみたいなのは、そんなにない。

ゴアシーンは結構グロい。一番よかったのは最初の、主人公のダンスに同期してしまい全身をバキバキに折られる人かな。主人公にバレエの主役の座を奪われた生徒が、悪態をついて練習場を出たあとでメチャクチャな目に会います。あれはすごいと思った。その後にフックで串刺しにされるのもすごかった。

その後は殺人シーンとかあんまりなくて、チラ見せみたいな見せ方になっています。その分を最後に爆発させた感じなのかな。でも、その最後もなぜかイマイチ盛り上がらないんだよね。撮り方が単調というか。

このラストの場面、結構壮絶な場面で最初はすごいと思うんだけど、徐々に盛り下がっていく感じがするのはなぜなんだろう。気を抜くと滑稽に見える恐れすらある。ちょっと長すぎるのかな。バレエでバキバキのシーンは執拗なところがよかったんだけど、難しいものですね。

それ以外にはとくにホラー映画としてすごいシーンはなかったと思う。

主人公が不思議な出来事に遭遇し、バレエ学校が実は魔女の棲家であることに気づいてしまう、というオリジナルから一歩踏み出した展開は、ストーリーとしては良かったとおもう。主人公の役回りを友達のサラに変えたところとか、主人公とブラン先生の関係とか。

ボスの正体のミスリーディング(だよね?)もうまく行っていたと思う。

ただ、魔女の棲家であることは観客には最初からわかりきっているので、もっと早めにそのへんを追求してもよかったかな。

それから魔女の正体、これは普通、反則なんじゃないの?

その代わりに何をしているかというと、バレエ学校なので当然バレエの練習場面がちらほら出てくる。練習中はなにやってるのかよくわからないんだけど、最後に練習していたバレエが上演される。このバレエはなかなかすごい。オリジナルは白鳥の湖かなんか踊ってるような感じだったけど、今作は前衛的なバレエ。衣装もおかしいし、見ていて面白い。

このバレエ公演あたりが映画的にもっとも盛り上がるところなのかな。裏側で進行するサラの探索とその恐ろしい帰結。そして、そこから続く儀式。この辺はいちおうよかったと思います。

キャストや演技は良かったと思います。

キャストは、すごい。パトリシア役にクロエ・グレース・モレッツ。ほんのちょい役で、しかも彼女が出ている場面は常にカメラが動いていたりして、正面から顔を捉えるショットはほとんど一箇所しかない。これは気づかない人もたくさんいると思う。主役級の俳優なのになんてもったいない。

主人公役はダコタ・ジョンソン。強そう。バレエもちゃんとしてる。

主人公の友達のサラはミア・ゴス。脳天気な何も考えてない親友役かと思ったら、友人パトリシアの失踪もあって学園の秘密に気づいてしまい、秘密の部屋を発見することに。かわいそう。

マダム・ブラン役はティルダ・スウィントン。英語、ドイツ語、フランス語を駆使するブラン先生のおかげでこの映画の評価が3割増くらいになっている。さすがです。そしてこの人、この映画で1人3役をこなしているという。一見してそれらしい人はいないのですが、どの役なのかみなさんわかったでしょうか。

そのた、生徒たちも先生側のおばちゃんたちも、なかなか個性的な人がいました。でも一番目立っていてよかったのはティルダ・スウィントンですね。

あ、音楽のトム・ヨーク。これは良かったと思います。印象に残っているのは主題歌含めて2種類くらいの曲だけど、トム・ヨークの歌声はいい。

というわけで、なかなか評価が難しい映画です。

オリジナルみたいなのを期待する人には向きません。そしてなにより難しいのが、この映画がポップコーン片手に楽しくながら観できるタイプの映画ではなく、わりときちんと見ないと大事な点を見逃したりして、理解できなくなってしまうところ。最初は酔っ払って見始めて、よくわからなくなったので改めて見直しました。

結構人を選ぶ映画になっていると思います。なんて無駄の多い、たるい映画なんだ、という気持ちもあるし、無駄=理解できていないシーンということで、その場面の意味を再確認したくもなる。再見することで魅力がます映画なのは間違いないです。ただ、再見させる原動力にちょっとかけているかな…。長いし。印象的な場面も結構あるんですけどね。

ということで、もう一度見ることは確実ですが、手放しで絶賛はできません。見て判断してねとしかいいようがないです。オリジナルとは無関係の新しい映画だと思って見たほうが楽しめます。

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