何気に期待していた「貞子DX」をみた。
リングシリーズをよく見ているわけではないのでわからないが、原作は「リング」、「らせん」、「ループ」、映画だと「リング」と「らせん」くらいは正統、それ以外は亜流な感じがする。
このDXも一応リングシリーズの最新作だとは思うが、呪いのビデオ、貞子というモチーフが共通してはいるだけの派生品のようだ。
コメディ風味のサスペンス映画
で、貞子DXを見て改めて思ったのは「貞子vs伽椰子」にも感じたのと同じ、もうこのシリーズで真正面からまじめなホラーを作るのは無理なのかということだった。
必ずしもそれが悪いというわけではない。「貞子DX」はIQ200を超える天才少女が呪いのビデオの謎に挑むという話で、意外なことにコメディ要素を入れながらも構成はまあまあしっかりしたホラーの枠組みで、そして意外なことに思ったよりも面白かった。
「貞子vs伽椰子」はときどきまじめなホラーっぽくなり、ややどっちつかずで最終的な爆発力にかけている点があったと思う。その点、「貞子DX」は最初から物語のスケールを制御可能な範囲に設定していて、その中で登場人物たちの行動のバランスが取れていたと思う。
クセのあるキャラクターたちがなかなかいい感じ
キャラクターの特徴づけにはいろいろ苦心したあとが見られる。最初、主人公の天才(小芝風花)が耳に手を当ててクイクイやる動作が意味不明で、かなり浮いてる感はあったけど、あとから登場する相棒格のユーチューバー占い師前田王司(川村壱馬)もキモいイケメン流し目を決めポーズにするなど、そういうもんなんだと思ってみるととくに気にならなくなった。
主人公の天才ぶりがあまり伝わらないのが少し引っかかった、というか主人公の発揮するシャーロック・ホームズばりの推理力は、主人公が出演するテレビ番組ではあまり発揮されないような気がするし、呪いのビデオの解明にもそれほど役立ったような気がしない。呪いのビデオの謎を解き明かしていくのも、むしろ周囲の人々の解析によるものに思えるし。
池内博之が演じる霊媒師の周辺だけ、父親との葛藤などで少しまじめな雰囲気があったのは俳優の素質によるものだろうか。少し演技や演出のトーンが違う箇所があったように感じた。しかし、こんなやばいビデオを通販で販売するなど、やっぱりこれも根底から狂っているキャラであった。
感電ロイドなるユーチューバーも、いつの間にか主人公と一緒にビデオの解明を進めることになる。引きこもりで常に素顔を明かさない変人だけど頭が良く主人公を助けてくれる、最後にはひきこもりを脱して外に出てくる、みたいな典型的な好印象の補助キャラ、最終的には話が長引くと途中で死んだりしがちなキャラ設定だと思うんだけど、被り物とかしゃべりかたで外見的なインパクトも作ってあってそういうキャラクターをきちんと全うしていた。ただ、素性やなんかはさっぱりわからない。
相棒役の川村壱馬も、実家がなんか新聞屋みたいだったりしてなにか設定が作ってあるとは思うんだけど、映画の本筋には関わってこない。この辺はもう少し突っ込んでみても面白そうだと思った。
主人公のお母さん役は西田尚美で、前編すっとぼけた感じの演技で呪いのビデオに関しても我関せずといった態度。vs呪いのビデオという話で高まりがちな熱量をすっと抜いてくれる役どころで、また家族愛の要素の要でもあり、何よりラストシーンでのとぼけ方が非常によかった。
結末
「ループ」を読んでいて思ったのは、結局それって何も解決してないよね、ってことだった。なにか答えがでているような気がするものの、延々と同じループに陥ってしまう。
「貞子DX」は呪いのビデオに対してある解決策を提示しており、この雰囲気はすごくいいと思った。
まとめ
天才少女vs呪いのビデオという構図を期待すると肩透かしを食らってしまう。主人公がIQ200に見えず、またすごい頭脳を活用して呪いのビデオに対処する話じゃないという点。これだと看板に偽りありなので根本的に問題である。
ただ、変な人達が呪いのビデオに翻弄されてドタバタするその混乱ぶり、翻弄されながらも呪いに抗おうとするジタバタぶりを楽しんでみると、結構楽しく見られる良作だった。
エンターテインメント用に作られたキャラクターが、用意された枠組の中で概ね正しく行動してそれなりに納得感のある結末に至るという映画で、個人的にはこのきちんとした面白さを出すのは意外と難しいのではないかと思うので、この映画はとってもよくできていると思いました。