映画「64-ロクヨン-」の感想。お涙頂戴が空回りしている印象。

前後編に別れた大作映画、64を見ました。うーん。残念ながら、微妙な出来栄えです。長いし、役者陣は力が入っているんだけど、なんか演技のテンションがおかしくてリアリティがない。

失われた昭和64年(=平成元年)に発生した身代金誘拐事件(=ロクヨン)を、時効直前に解決するという話だと思っていたのですが、実際には警察vsマスコミというもう一つの要素もある、欲張りな映画になっていました。

被害者の死で終わった誘拐事件、娘が行方不明になっている主人公、という重苦しい深刻な印象で始まった映画ですが、だんだんどうでもいい感じになってきて最後は惰性でみていました。

佐藤浩市演じる主人公は、64年の誘拐事件捜査に参加していた刑事で、いまは警察の広報官という対マスコミ折衝班の班長をやっています。たぶん、左遷されたということなんでしょうか。佐藤の部下に、係長役の綾野剛、あと金井勇太と榮倉奈々。

広報官の仕事は発生した事件などについての警察発表をマスコミ=記者クラブの記者たちに発表することなのですが、主人公たちが所属する群馬県警は前々からマスコミと敵対関係にあるようで、主人公は両者の板挟みになって苦労します。冒頭でも、交通事故の加害者の氏名を公表しない警察にマスコミが猛反発、かれらが本部長に抗議文をだすと言い出して大騒動になります。

このマスコミ側の反応が、ちょっと過剰すぎておかしい。

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演技のテンションがおかしい場面がある。

マスコミと警察の表面的な対立はよくあることだと思うし、実際に記者会見現場でマスコミの質問や発言に辛辣なものがあるのも日常茶飯事だと思うけど、この映画のマスコミ側の演技はいらだちや、居丈高な態度や、反感というのを通り越して、怒りになっている。それはあまり、リアリティがあるとは思えません。それなのに警察側のちょっとした譲歩によって急に広報官の意見を聞く態度になってみたり、やっぱり反対してみたり。ここでは広報官に反対する態度、ここでは一定の理解を見せる態度、と場面ごとに一つの感情を演出しているように見えるけど、それがあまりに極端で、コロコロ変わるロボットみたいで不自然に感じた。

思い出すのは、「催眠」という映画の警察署のシーン。この映画でも、事件が発生していてみんなが電話口でどなったりわーわー騒いでいるシーンがあるのですが、忙しなさや活気を演出しようとするあまり、画面に登場している人全員が怒鳴り散らしているような感じになってしまい、ちょっと演出過剰な場面があった覚えがある。

もうひとつ思い出すのは、「突入せよ!浅間山荘事件」で、警察が事件状況を伝える記者会見のシーン。ここでも一人の記者が「とっとと突入しろよ!」とかいって叫び始め、警察の一人がまあまあ、となだめに行くシーンが(たしか俯瞰気味に)撮影されていた。この監督の映画は苦手なんだけど、会見場面の嘘くささという点では圧倒的にマシだったと思う。

マスコミ代表の瑛太はさんざん広報官に楯突いていた割に、広報官がちょっと泣かせる話みたいなのをすると目を潤ませてしまい、まるで反抗期の不良(根はいいやつ)みたいである。瑛太は表情もいいし、演技は悪くないと思うんだけど、なぜここまで態度が一変するのか理由がまったく描かれておらず、謎だ。広報官の演説が感動的だったから、ということで片付けようと思っているのなら、残念ながらそこまでいい話じゃないし、だめだとおもう。

瑛太は当初広報官に期待していたがそれが裏切られた、そこで積極的に楯突くようになった、しかし広報官の妥協点を見出そうとする努力に感心した、そこで今後は一定の協力関係を構築するようになった、という流れなんだと思うけど、変心の直前までひたすら感情的とも思える対立をしているだけなので、そういう流れはまったく見えない。

あと、なんかおかしいのは、再び誘拐事件が発生して県警に捜査本部が設置されるシーン。刑事たちがみんないなくなって、おかしいなとおもって探しに行くとでっかい体育館にみんなが集まっていて、誘拐事件が発生したことを知る、というところなんだけど、小澤征悦がなんであんなに重々しいしゃべり方なのか。身内である佐藤浩市に対しても非協力的で、ヒーロー物の悪の幹部役みたいな喋り方で、おかしい。

本部長役の椎名桔平、これくらいの落ち着いた嫌味加減がちょうど良かったのではないかと思う。毎朝おくさんが磨いてくれている、佐藤浩市の履いている靴をみて、「汚い靴だねえ」と悪気もなく言い放つ。椎名桔平の出番はこの1シーンだけだけど、警察の、というか組織の悪い部分が透けて見えるいい場面になっていたと思う。

そもそも、警察が報道対応ちゃんとすればいいのでは。

なんで広報官に対してみな冷淡なのかがわからない。マスコミと一応和解した直後に、ロクヨンを真似た誘拐事件が発生。当然マスコミに対して発表があるんだけど、そこで警察が発表者として用意したのが二課長。

よくわからないけど、誘拐事件クラスだと普通は本部長か一課長が報告するらしいです。そこですでにマスコミからは非難轟々なんですが、この二課長(柄本佑)、本当に急遽任命されただけで事件の概要も被害者の氏名もなにもわかっていない。

当然、マスコミからはひたすら罵声を浴びせられ、佐藤浩市がなんとか情報を取ってこようと奔走することになります。この場面でのマスコミの罵倒はさらに過激になっていますが、たしかになんで警察側がまともな対応をしないのか、まったく理解できない。

実際には、この事件が過去の誘拐事件解決につながる重要なもので、マスコミの報道で犯人にそれと感づかれないように情報統制をしているのですが、それにしてもあの、途中で気絶しちゃうような二課長を用意するのは失敗でしかないように思える。彼もまた、重大な任務を頑張っているキャラ的な描き方がされているけど、なんか違うんじゃないか…?

ようするに、報道という観点からはマスコミにとっては警察は基本的にクズで、そういう仕事を担当させられる広報官は大変、という話のように思えました。

困難を乗り越えて頑張る主人公、という姿を描こうとしているんだけど、そのためにむりやり広報官を苦しい立場に追い込んでいるように思えるところがちょっとありました。

エピソードの羅列で、有機的なつながりがうすい。

警察庁長官の視察というエピソードがあるんだけど、これがよくわからない中途半端な状態になっているのも残念。映画の中では、ロクヨンという忘れ去られた事件を再び思い出させる、というだけの意味しかなく、そこでたまたま模倣事件が起こるのは、単なる偶然でしかない。長官視察がなかったら、主人公がロクヨンの被害者宅に行くこともなかったし、謎の幸田メモとかを知ることもなかった。でも、これってロクヨンの概要を観客に知らせるためだけのエピソードとして機能しているだけ。

実際は警察庁長官とセットになった刑事部人事に関する重大発表があって、それを阻止するために群馬県警側の陰謀なんかもあるんだけど、いまいち印象が薄い。もしかしたら模倣事件も群馬県警の陰謀なのか?と一瞬思わせるんだけど、その線で観客をミスリードするつもりもないみたい。

主人公の家出した娘。これも何も解決していない。最後に娘からと思われる電話がかかってくるけど、娘は回想シーン以外登場しないので、映画で描かれた父親の頑張りとはなんの関係もない。不細工な父親に似て不細工な顔が許せない!と泣きわめく娘だけど、父親も別に不細工じゃないし、娘も芳根京子が演じていて、ちらっと映る顔は不細工には見えない。客観的な養子の問題ではなく、家庭内の父親との関係が原因で家出に至ったのだと思うけど、娘が劇中に登場しないのだからあたりまえだけどその問題については何の進展もない。

なので、ひきこもりになっちゃった元捜査官のエピソードも、単発のエピソードになってしまう。なんとなく家でした娘と引きこもりになった元捜査官、心情的な関連がありそうな感じがするけど、全く関係ないんですね。娘を家出していない荒れ狂う不良少女とかに設定して、引きこもり捜査官のエピソードと絡ませたりすれば、まだ広がりがあったと思うけど。あと引きこもりのエピソードも、なんとなく感動的な場面、というふうにしているけど、なんであれで引きこもりから脱するのかよくわからない。そもそも、あの程度といっちゃなんだけど、あれだけで引きこもりになるほどメンタル弱いもんなんだろうか。どうも嘘くさい。

それから昭和64年、という舞台設定については、特に意味があるようには見えなかった。天皇崩御の映像や、すべての店にシャッターが降りている町並み、という印象的なシーンも少しだけあったけど、それだけ。古臭い警察署内の様子はよかった。

まとめ。

ようするにこの映画は、それぞれ無関係な広報官の仕事、主人公の私的なトラブル、過去の誘拐事件、長官視察といった単発のエピソードを詰め込んで、むりやり前編後編の大作に仕立て上げたように見える。

個々の演技は悪くないんだけど、全体としてまったく乗れない。というより、全体を通してのストーリーというものがない。

どっちかというと広報官を主人公にしたTVシリーズにして、個々のエピソードをもっと膨らませて見せたほうがよかったのではないかと思う。と思ったらもうドラマ版もあるんですね。しらなかった。

「半落ち」もあまりおもしろいと思わなかった。たしか、主人公の企みが露見するきっかけがスーツのポケットに入ってたポケットティッシュだったっけ。それくらい始末しないとは、詰めが甘いなと思ったし、なぜ寺尾聰が無精髭を剃らないのかが気になって仕方なかった。せめて法廷ではヒゲくらい剃ればいいのに。

それはともかく、期待してみた割にはがっかりな出来でした。

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