「28日後…」の感想。傑作亜流ゾンビ映画。走るゾンビの元祖?

走るゾンビの元祖とも言える「28日後…」。厳密にはゾンビじゃないけど、ゾンビものの一種で、それらのなかでも非常に出来のいい映画だと思います。ゾンビものというフォーマットを参考にしつつ、ダニー・ボイルらしさを失わず、またいくつもの点で単なるゾンビものから脱していて、正統派のゾンビではない亜流ではあるものの、個人的には傑作だと思います。あまりホラーっぽすぎないのもいい。

最初はこういう映画がでるとは知らなくて、たまたまDVDショップで映像を見て、輸入盤を買って見ました。

ダニー・ボイルでゾンビ?と驚きましたが、あまり宣伝とかされてなさそうだったのと、ビデオ撮影だったので低予算なのかな?と気になり、当時はすでに有名監督だったダニー・ボイルに何かあったのかと心配したのを覚えています。

で、映画そのものはそういう心配を吹き飛ばす傑作で、いろいろな面で優れた作品でした。

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主人公の覚醒。

ヒロイン?役のナオミ・ハリスは最初から気丈で芯のある女性を演じていてかっこいいのですが、それに比べると主人公のキリアン・マーフィーは、すっぱだかで病院のベッドで昏睡している姿(冒頭の実験台にされているチンパンジーとかぶる)から始まり、引きずられるままに感染者から逃げる様子にはあまり主人公らしさがないというか、ひ弱な青年感がよく感じられます。それにキリアン・マーフィーがぴったり。そういえば本作の脚本を担当したアレックス・ガーランドが後に監督した「エクス・マキナ」も、同じようなひ弱な青年が主人公でした。

で、この映画で面白いのが、そのひ弱なキリアン・マーフィーが映画の後半で突如覚醒して目覚ましい活躍を見せるところですね。塀を乗り越え、敵を撹乱し、同士討ちを誘い、なぜか屋敷の隠し扉の場所も知っています。かれの職業はクーリエだったと思いますが、こういう芸当ができる裏設定みたいな伏線は特にありません。でも、クライマックスのそのへんの音楽とかかっこよくて、演出的にもスマートでノリで見れてしまうのがさすがダニー・ボイルといったところです。この覚醒は強いて言えばヒロインがピンチに陥ってから起こり、彼女を助けるための行動なので、愛のちからということでしょうか。

ユーモア

ノリがコメディではないのですが、イギリスらしいというか。ゾンビもの、パニックものではあるものの、全体に余裕が感じられるわけです。シャロウグレイヴとかもそうだったと思いますが、サスペンスの基調にどこか抜けたユーモアがあるというか。ダニー・ボイルらしいというか。

この映画も一応ジャンルとしてはホラーに分類されるんでしょうが、グロすぎたり怖すぎたり、という点がなく、結構家族で見ても楽しめるしんじゃないでしょうか。

ゾンビランド、ショーン・オブ・ザ・デッドみたいなあからさまなコメディではないものの、料理係がつくるオムレツとか、後半のテンションを一気にぶち壊す女の子の一撃とか、面白いです。主人公が目覚めたら誰もいない、悪夢か…と思ったら寝坊した主人公をおいてみんな車に乗り込んでいて、ほんとに誰もいなかった、とか、そういうシーンもいい気休めになります。

で、そういう場面があるおかげで、その後のサスペンスが生きてくるというのも確かです(その逆も)。つまりメリハリのきかせ方がうまいんだと思います。

キャスト

キャストもいいんですよね。

まずキリアン・マーフィー。これ、たぶん初主演作なのではないでしょうか。これが出世作になった感じです。その後クリストファー・ノーランの映画にもよく出ていて、ダニー・ボイルではサンシャイン2057でも主演してます。

ヒロインのナオミ・ハリス。ダニエル・クレイグの007シリーズで有名ですね。この人もこの映画で注目されたと思います。強さと、その裏のもろさをたくみに表現していたと思います。

主役二人のその後の活躍を見ると、なかなか目の付け所のいいキャスティングです。

もうひとりのヒロイン、ミーガン・バーンズ。しっかりものの娘で、若い割にたくましく物事に動じない娘を演じていて存在感がありました。

ブレンダン・グリーソン。名優。優しくて力持ちなお父さんを演じていてピッタリ。主人公が寝ぼけてつい「お父さん…」といってしまうシーンも、その前段で主人公の両親が亡くなっているのを知っているだけにしんみりします。

そんなお父さんが些細なことで感染してしまうシーンはショックですし、その後の正気を保っている数秒の言動もなかなかうまく撮られていると思います。

ちなみに、「エクス・マキナ」の主人公を演じているのはブレンダン・グリーソンの息子ドーナル・グリーソンです。

クリストファー・エクルストン。軍隊の隊長役ででてます。この人もシャロウグレイヴでダニー・ボイル監督の映画に出てますね。シャロウグレイヴでは真面目でだんだんおかしくなる印象的な役でしたが、今回はなんとなくゲスト出演的な印象。軍人っぽい感じではないと思いますが、隊長って感じではあります。

きちんとしたオープニングとエンディング

ゾンビものには珍しく、冒頭でゾンビ発生の理由がきちんと説明されます。この映画では死者は蘇りませんが、生者が「レイジ(怒り)」というウィルスに感染し突如理性を失い凶暴化し人を襲い始めます。

ウィルスは秘密の研究施設でチンパンジーを使って研究されていたものですが、動物実験に反対する過激な動物愛護団体/環境保護団体が施設を襲撃、ウィルスが外に漏れてしまいます。

チンパンジーを椅子に縛り付け、世界各国のテロ映像やら、人間の破壊行為を記録した映像を延々と見せるという確かに虐待とも取れる実験。解放に来た動物愛護団体がどう見てもテロリスト。チンパンジーを助けに来て、イギリス全土を破滅させるという皮肉。

このオープニングシークエンスはよくできてます。よく考えると、扱っているもののヤバさの割に施設がしょぼかったりセキュリティが甘いように思えますが、実際の紛争やら事件やらの記録映像からスタートするこの場面はよく出来てます。ひとしきりドタバタが済んで、ウィルスが外に漏れちゃったあと、ガラス張りの飼育装置に入れられたチンパンジーが静かにうつむく姿などなかなか印象的です。実際の動物を使ったここの撮影は大変だったのかな。

エンディングも、明るくていいものです。

「こんなウィルスが海を渡る訳がない。アメリカじゃ、今だってテレビでシンプソンズを見て笑ってるに決まってる…」主人公と一緒に監禁された兵士がそういうことを言うのですが、ゾンビ映画ってあんまり外国の様子について言及していないような気がします。同国内の離れた場所についてはときどき語られ、結局そこも壊滅してる、というようなことになるんですが。

この映画の場合は発生源がはっきりしていて、いきなり海をわたるというのは考えにくい。つまり、何かしら外部からの救助が期待できるわけです。

エンディングはホラーだからと無理やり絶望的にせず、前述の兵士のように理性的に考えればこうなるというものになっています。ゾンビの寿命について、言葉では言及されませんが映像で見せているのも珍しい。この映画でのゾンビは超自然的な力をえているのではなく感染者なので、何日も飲まず食わずで走り回ってたら当然体力が尽きてしまいます。ラスト、戦闘機からの俯瞰映像で道に横たわる感染者がいるのはそれを意味しています。28日後…というオープニングと同じテロップが入りますが、感染発生から28日が過ぎて、少なくとも第一次の爆発的感染者の多くは行動停止状態に陥ったということです。

そしてラスト。HELLかと思った文字がHELLOに変わる。HELLOで終わるゾンビ映画はなかなかないですね。

撮影

でも残念なのは、なんでビデオ撮影なのか、という点。たぶん予算がかなり少なかったんだろうと思います。いまでこそビデオ撮影は当たり前ですが、この映画が作られた頃はまだまだデジタル技術は進んでおらず、画質は悪い。DVDならまだいいものの、ハイビジョン以上で見ると粗が目立ちます。ラストだけフィルム撮りで、そこと比べると歴然の差があります。たしか監督はそのデジタル画質も舞台の荒廃を表現するためのなんとかかんとか…とか言っていたような気もしますが、やっぱり全部フィルムで撮影してほしかった。

でも、テンポの良いカメラワークとか、画質以外はとくに文句はありません。あと前半の無人のロンドン。あれはたしか早朝に撮影したり、CGで余計なものを消したりしたと読んだ記憶がありますが、あの廃墟になったロンドンとか、道路をふさぐ大量の車といった映像もいい出来でした。

音楽

ジョン・マーフィーが手がけた音楽もいいですね。オープニングの不気味な音楽、というか音も印象的ですが、その後もひとつの主題をいろいろに変えて重苦しいストレスフルな音楽、サスペンスあふれる音楽と場面に合わせて様々に盛り上げてくれます。ところどころ他の人の曲も入れてきて、飽きさせません。たとえば、「ゾンビ」のオマージュとも言えるスーパーマーケットのシーンではグランダディの”Am180″、ほかにブライアン・イーノの安らかな名曲”An Ending (Ascent)”、あとエンディングに使われているBlue Statesの”Season Song”。どれもよくあっています。

まとめ

ウォーキング・デッドみたいな長大で時に単調な終わりのないゾンビものを見ていると、それとは真逆の「28日後…」がとても心地よく感じられることがある。このあと、走るゾンビで「ドーン・オブ・ザ・デッド」が大ヒットしたけれど、あれは下品だったり見ていて嫌なシーンが時々あった。それに比べて「28日後…」は嫌な場面、というのがない。どの場面もそれぞれ決まっていてかっこいい。多分かれこれ10回は見たと思いますが、おすすめです。続編はこれよりちょっと劣る気がしますが、まだ1回しか見ていないのでまた見てみます。