友成純一氏が2024年7月23日に逝去されました。
すっかり日本の文壇からは遠ざかっていた友成純一ですが、私の中では存在感ありありだったので、扶桑社からでたエッセイシリーズを読んだのをきっかけに近況チェックしていました。
しばらくはインスタ等でバリでの日常を散発的に紹介してくれていましたが、コロナ以降は福岡に戻ってそのままマンションで暮らしていました。
お金があまりないようで生活費のために日雇い仕事に挑戦するなど、大変そうな暮らし向きでしたが、末期癌という物騒な言葉を見てからはおいおい大丈夫か…と心配していました。
最もよく知られているのが「獣儀式」と「凌辱の魔界」でしょうか。二見マドンナ文庫からでたあと伝説の作品化していましたが、結構売れたみたいで古本屋でもときたま見かけました。その後幻冬舎アウトロー文庫でも出版されているので、読んだ方も多いと思います。
しかし、内容はもうありえないレベルのエログロ。
友成純一の代表作、「獣儀式」
最初におすすめしたいのは「獣儀式」に収められている「狂鬼降臨」でしょうか。あ、もともとの「獣儀式」は「狂鬼降臨」という中編と、いくつかの短編で構成されている本になります。短編集もかなり狂ってますが、狂鬼降臨がやっぱりすごいです。
突如地上に現れた鬼が、亡者相手に冥土で繰り広げていた地獄の責め苦を生きた人間相手に延々と繰り返すという内容で、その殺伐とした雰囲気とタガが外れたような描写に身震いしたものでした。免疫のない人が読んだら拒否反応を起こすか、しばらく頭から離れないような人体損壊描写が連続する内容は、一般的な小説とは別次元のものと捉えたほうがいいかもしれません。
ただ、人間一皮むけばみんな同じだというような、なにかしらの文明観や人生観が感じられて、それは作者のエッセイにもよく現れています。
その他にもたくさんの小説を書いていますがいくつかを読んだ限りではスプラッターの度合いでも狂鬼降臨を凌駕するレベルのものは少ないようなので、まずは獣儀式や凌辱の魔界を読んでみましょう。
エッセイ、映画評論がたくさんあって面白い。
それから、エッセイです。個人的にはこちらのほうが面白かったです。
「ローリング・ロンドン」、「内蔵幻想」など、各地での生活や思想をつづったエッセイと、映画評論に大別されるエッセイですが、ローリング・ロンドンを読むと狂った小説を書いているように思える氏がとても真面目で常識的な人であるとわかり安心できます。ローリング・ロンドンではまいにち真面目に執筆作業をしていたら、同じアパートだかに住むちゃらんぽらんな男が氏に触発されて真面目に働き出したなんて話も紹介されていたと思います。また夭逝の歌人仙波龍英の話なども、ほんの少しだけど興味深かった。ロンドン・ダンジョンという観光地や切り裂きジャックが犯行を繰り広げたホワイトチャペルという地域の紹介などもあって、この本を読んでいたのでむかしロンドン旅行をしたときにどっちも見に行きました。
映画の評論も時折過激な表現がまじりますが極私的な観点と映画を通じて時代を捉える視点が融合された読みやすいものでおすすめです。「内臓幻想」の単行本版は表紙の美しさもあって格調高い評論集のような雰囲気がありました。実際にはまえがきの段階で氏のスプラッター映画遍歴、高校生時代に参加した学生運動、内ゲバ体験、アル中で入院と氏のそれまでの半生を一気に紹介され、そんじょそこらの映画感想本とは一線を画する内容であることが予感されます。
最近はバリでの生活を綴り、バリ映画を紹介したエッセイ集が扶桑社から観光されています。この友成純一エッセイ叢書もおすすめです。
翻訳
翻訳もいくつかあり、もっとも有名なのはスティーブ・ジョーンズ著「恐怖の都ロンドン」かな。おそらくヒットしたのかこれに続いて同著者の「鍵穴から覗いたロンドン」「罪と監獄のロンドン」など、ロンドンの暗い側面暗部を紹介する本を翻訳をしていたと思います。ほかにグースバンプスシリーズで有名なR・L・スタインのホラー小説「迷信」など小説もちょこちょこ翻訳していました。
あとは映画秘宝がまだ季刊だったころから映画の紹介や海外の記事の翻訳などを寄稿していましたが、こうした雑文はおそらくまとめられることはないでしょう。
今買うなら断然電子書籍がおすすめです。
氏の著作は紙の本ではなかなか手に入らなかったりプレミアがついていたりすると思いますが、いま読むなら断然電子版がおすすめです。主要な著書の多くが電子化されているだけでなく、かなり長めの「電子版あとがき」が収録されているからです。主に電子版出版時のエッセイといったものになると思いますが、結構な分量があるのでこれを読むために電子版を買うのもありだと思います。わたしが「邪し魔」電子版を購入したのも氏の最後のエッセイが読みたかったからです。
これに収録された電子版あとがきでは余命幾ばくもないと知りながらも平然と淡々と過ごす氏の姿が描かれています。冷蔵庫が壊れ、三十年来使っていた洗濯機も壊れ、商売道具の十年選手のマックブックもガタが来ていながらも、湿っぽさとは無縁のあっけらかんとした筆致は小説にも共通する氏の持ち味だったと思います。
なお肝臓癌だったようで、一時アル中だった氏なのでやはり酒の飲み過ぎで癌になったのかと思いましたが、以外にも正確には胆管癌から始まったもので、医師によると「酒のせいとはいえない」らしいです。意外でした。