判断ミス、バイアスの理由を脳の働きから解明する。「ファスト&スロー」の感想。

脳と意識についての著作を続けて読んだ。ひとつは「あなたの知らない脳」で、もうひとつは「ファスト&スロー」。どちらも、脳が自分の意識とは無関係に動いていることを前提にした本で、とくに「あなたの知らない脳」はそこから更につっこんで、意識そのものが、脳の活動の結果自然発生的に生み出されているもので、自我というのは幻想かもしれない、というところまで話をすすめていた。

スポンサーリンク

無意識下の脳の働きが判断に与える影響。

「ファスト&スロー」は最初は同じように人には制御しづらい無意識の脳の働きにスポットを当てるが、その後はそれが日常生活の様々な判断基準に及ぼす影響にフォーカスし、より世俗的、実際的な問題にシフトしていく。

その結果、「ファスト&スロー」はビジネス書とか啓蒙書の類にも分類できそうな内容を含む一般受けする内容になった。帯に「東大でいちばん読まれた本」とでかでかと書かれていて、読むと頭良くなるような雰囲気を醸し出している。

上巻下巻に分かれていて結構長い。上巻の自動的な判断基準(この本ではシステム1と呼ばれる、単純で無自覚的に機能する脳の活動)、理性的な判断(この本でシステム2と呼ばれる意識的な脳の活動)を解説している箇所はおもしろい。その後はいくつもの具体的な実験を紹介しいかに人の判断が誤りやすいか、それぞれシステム1、システム2の働きを引き合いに出して説明していく。どれも人間の錯覚、バイアスのよい見本になっていて面白い。システム1、2による説明がすべての場合に必ずしも効果的とは思えないけど、いろいろなところで間違いがちな脳の働きが実験によって明確に示されている。

この本を読むことで実際に正しい判断が下せるようになるか。

確かに、この本で説明されているのはいかに人の無意識/直観が人の判断に大きな影響を与えるか、そしてそれが多くの場合間違った判断をもたらしうるか、ということで、そのメカニズムを知ることでいろんな場面でより適切な判断を下せるようになるかもしれない。

まあ実際には、その誤りを犯しがちなシステム1は脳に深く刻み込まれているのでそう簡単に制御することは出来ないけど。それに対抗するシステム2を働かせることで間違った判断に飛びついてしまうことは避けられるけど、システム2を働かせることは注意力、計算、努力を伴うのでなかなか難しい。

こうした間違いがちな傾向を矯正、あるいは補正できるかどうか。この本でも書かれているけど、そうとう意識的な努力をしないと難しそうです。一つ言えるのは、特に統計的な問題や確率問題とか数字を伴う判断をする際には、かならず電卓を用意して計算しましょう、ということかな。あとはこの本の各章の題材をしっかり頭に入れて、それぞれの間違いのパターンを一覧かして常に参照出来るようにしていればどうにかなるかもしれない。

投資に関する話題も多く、株をやっている人にも参考になるかも。

一般読者にとっては、とくに投資判断に関する話題が興味深いのでは、と思った。下巻190ページから198ページ、203ページから207ページは株なんかをやっている人は肝に命じておくべき内容が書かれている。投資に関してはほかにも面白い話題がいくつか紹介されている。過去7年の証券会社の顧客データを調べたところ、取引の活発な人ほど損をしていて、取引の少ない人ほど儲けているという結果がでたとか。とある投資顧問会社の投資アドバイザー25人の過去8年の成績を調べたところ、スキルの差はまったくなく、要するに毎年ランダムな成績だったという驚愕の結果がでたとか。

もっとも、株をやっている人はこういう話は当然すでに見知っているだろうから新鮮味はないかもしれないけれど、忘れるべからず教訓として時々触れるのは悪くない。そういう意味では投資やギャンブルなど経済活動についての話題もちょくちょく出てくるこの本は投資をしている人にもおすすめできます。

まとめ。重要な判断をする機会のある人なら、読んでいて損はない。

凡百の啓蒙書よりは遥かにおもしろく、いい内容だと思う。本書でも触れられているけど「マネー・ボール」のビリー・ビーンがアスレチックスを強豪に仕上げた手法が、バイアスを脱却してつまり意識的な理性の働きによって選手を選ぶという、本書でいうシステム2を働かせたやり方だった。また政策立案など、国家の予算なんかに関わる重要な仕事をする場合には間違った判断を下さないようにこの本に書かれているような内容を把握しておくことが必要だと思いました。精神とか運とか占いとかに頼らず、科学的な判断の根拠を示せることが必要な立場の人もたくさんいるはず。

実験例の羅列なのでやや単調な面もあるけれど、題材が面白いので退屈せずに読めると思います。ただ実験はあくまでも単純化されたモデルでの実験なので、ここで紹介されている事例を実生活で実用的に役立てようとするのは、なんども書くけどかなり修練が必要。投資、統計調査など、結果が数字で出る問題に関しては役立てやすいと思います。

スポンサーリンク



フォローする