キングの「ファインダーズ・キーパーズ」”Finders Keepers”を読んだ感想。

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2017年8月4日追記:日本での発売日が決まったみたいです。

『ファインダーズ・キーパーズ 上』スティーヴン・キング 白石朗 | 単行本
エドガー賞受賞『ミスター・メルセデス』続編 多額の現金と幻の原稿を拾った貧しい少年。それは出所したばかりの強盗の盗んだものだった。少年を守るため元刑事たちが立ち上がる。

2017年9月29日発売。やっぱり白石朗訳で、上下巻。以上、追記終わり。

キングのミスター・メルセデスの続編。ビル・ホッジズ3部作の2作目です。

ビル・ホッジズ3部作の2作目。近所に売ってなくて長いこと探していたが、たまたま見つけたので買った。早速読みました。前作ほどのスリルはないけど十分面白い。
ある伝説的な作家と、その遺稿にまつわる物語です。以下、前作”Mr. Mercedes”も含めてネタバレがありますので注意してください。

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”Finders Keepers”のあらすじです。

裏表紙のあらすじを元に紹介すると、こんな話です。

1978年、田舎町の畑の真ん中の家に3人の強盗が押し入る。家に住むのは引退して久しい伝説的な作家、ジョン・ロススタイン。強盗の主犯格はモリス・ベラミー、ロススタインの書いたジミー・ゴールド三部作の熱狂的なファン。モリスは三部作の主人公ジミーに心酔しきっていたが結末でのジミーの扱いに強い不満を抱いていた。押し入った先でロススタインと口論になったモリスは彼を射殺する。モリスらは金庫から現金を奪うが、本当の狙いは金ではない。金庫には金のほかにノートの束があった。モリスの予想通り、ノートにはロススタインの未発表の作品が含まれていた。それも、完結したはずのジミー・ゴールド三部作の続編が。

強盗を追えたモリスは(道中で相棒二人をあっさり撃ち殺し)自宅に帰り、ノートの束と現金を古いトランクに入れ、裏道から続く林に運び、川沿いの大きな木の根元に隠す。しかしその晩酒に酔ったモリスはバーの裏路地で女性を襲い、終身刑を言い渡されてしまう。

やがて35年がたち、すでに60歳近いモリスはようやく仮出所する。保護観察官の目をかいくぐってトランクの隠し場所に向かい、トランクを確認して安堵するモリス。しかしその後、モリスはトランクの中身が消え去っているのを発見し泣き叫ぶ。

トランクをみつけていたのはピート・ソウバースという高校生だった。奇しくもかつてモリスがすんでいた家に引っ越してきたピートは偶然トランクを発見し、不況にあえぐ家族のために中にあった現金を使う。さらに見つけたノートを読むうちに、それがロススタインという作家の未発表原稿であることを知る。ロススタインについて調べていくうちに彼の作品にすっかり魅了されるピートだったが、家族のためにノートの一部を売却しようとする。それは彼の人生最大の過ちだった・・・。

というわけで、ピートとモリスのノートをめぐる争いが始まります。二人の間に介在するのはアンディという古書店主。1978年当時まだ書店員だったアンディはモリスの唯一の友達で、元はといえば彼との会話がきっかけでモリスはロススタインの原稿収奪を計画します。35年後、アンディは自分の店を持っており、そこにピートがロススタインのノートを持って訪れる。

このアンディもなかなかの曲者ですね。アンディはモリスが終身刑になっているのを知っており、ピートを強請ってノートを入手しようと画策します。一方モリスはノートを奪ったのはアンディだと思っていて、保護観察員にばれないようアンディに接近します。

前作とのつながりはあんまりない。

ところで、主人公のビルはどうからんでくるのか。ピートの父親は前作のメルセデス・キラーの被害者で、あの事件で両足を骨折し車椅子の生活を余儀なくされているんですね。それから前作で登場したジェロームにバーバラという妹がいましたが、ピートにもティナという妹がいて、ティナとバーバラは友達です。というかティナがバーバラを慕っている感じ。その辺からビルがこの話にからんできますが、ビルが登場するのはお話がほぼ三分の一くらい過ぎてからです。

ピートの父は不況と事故がきっかけで仕事も失い、家族の生活は逼迫、家も中流階級の地区から引っ越してしまいます。夫婦仲もぎくしゃくし始め離婚も避けられないのかという状況の中で、ピートがトランクを発見する。差出人不明の現金入り封筒が一家に届き始めて、一家の雰囲気が一変します。この辺の家族の描き方はうまく、ぎくしゃくする家族の様子、それを心配するピート、ピートと仲のいい妹の様子なんかが過不足なく描かれてて、類型的ではあるもののすっきり頭に入ってきます。

面白いのはモリスとピートとの対比ですね。二人とも同じ家に住んでいる(いた)。家の裏の森は共通の遊び場でもあったので、だからピートはモリスが隠したトランクを発見できた。そして二人ともロススタインの小説に魅了され、ピートはそれがきっかけで文学の授業に目覚め、大学の英文科に進学することを決心します。モリスは取り憑かれているといったほうがいいくらいで、未発表原稿を読まんがために刑務所で正気を保ってこれたと自覚し、ノートを手に入れるためなら手段を選ばないキチガイと化しています。

刑務所の様子は、あからさまに「ショーシャンクの空に」ですね。モリスが文章の才能を生かして受刑者の代筆をし、それなりの地位を得たり、何度も仮出所願いが却下されたり、ちょっとした部分ですが面白いです。

それから、ジミー・ゴールド三部作という作中での小説の扱いもうまいですね。ロススタインという、新作を発表せず田舎に隠棲している作家はサリンジャーがモデルでしょうかね。その三部作はアップダイクの「ウサギ」シリーズが元ネタだと思います。で、その三部作がある種の読者を魅了してやまない、伝説的な小説だということが、嘘くさくなく読んでいて実感できるんですね。ところどころで三部作からの引用があったり、三部作で有名な台詞が頻出したり、文学史での三部作の立ち位置が解説されたり。おおげさにいうと実際に読んでみたくなるような実物感があります。このへんはキングらしいところで、簡単にいうとリアリティがあるということなんですが。

今回もジェロームとホリーが登場します。ホリーは強迫観念や対人恐怖みたいな症状がかなり改善し(文中でかつてのホリーは”hikikomori”のようだったと表現される)、一人暮らしをし自活して生活をしています。ジェロームはハーバードに入学していて、ティナが一目惚れするほどのハンサムなんですがそんな男前な設定だったっけ?

文体はやはり現在進行形で進み、ちょっと軽くなってるような感じもし、前作にもまして読みやすい。コメディっぽい場面も増え、ところどころアメリカのドラマを見ているような気分になります。最後はやはりハラハラどきどきの駆け引きもあり、前作ほどノンストップで進行する感じではないかもしれませんが十分面白い話でした。前作のファンならおすすめしたいです。

ちなみにFinders Keepersというのは、ビルが始めた探偵事務所?の名前です。探偵というか賞金稼ぎみたいなことをしているみたいで、ホリーはそこの事務員として働いています。時々ビルと映画を見に行ったりもしていて、二人の仲もこれから進展があるのでしょうか。

そして最後、次回作に向けての引きがあるのですが、次回はまさかの超能力もの?

実は前作の犯人ブレイディ君はほぼ植物人間状態になって病院に入院しているのですが、どうも彼にサイコキネシスみたいな超能力が備わったことをにおわせて終わります。キング得意のホラーの分野に持って行くんでしょうか。最終作”End of Watch”はもう発売されているのですが、高いのでペーパーバッグ版が出たら読むつもり。→読みました。感想は

ビル・ホッジス三部作の完結編、"End of Watch(エンド・オブ・ウォッチ)"の感想。
スティーブン・キングのビル・ホッジス三部作の完結編、"End of Watch"を読んでみました。エンド・オブ・ウォッチとは、殉職した日のことをそういうみたい。あとは単純に、探偵の職が終わる時、という意味もある。 ホッジ"ズ"だと思いこんでいたがホッジスと読むみたい。 冒頭の献辞がトマス・ハリスに捧...

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